もうひとつの明日香
ちょっとディープな飛鳥を紹介する一冊。知らないエピソードも豊富で面白かったです!
他の本ではあまり取り上げられないような、ちょっとだけディープな飛鳥を紹介する一冊。筆者は元新聞記者で、2004年から明日香村へ移り住んでいる方で、本書では地元の方をガイド役に、明日香村から高取・桜井のエリアの渋いスポットを歩いて巡っています。もとは「俳句朝日」という雑誌に連載されたもので、2007年に書籍化されました。
私もそれなりに飛鳥へ行ったり関連書を読んだりしていますが、知らない場所や歴史が多数紹介されているのがいいですね。130ページ弱のコンパクトな本ですが、文章もレイアウトもとても読みやすくなっていて、とても楽しめました。
説明文:「あまり知られていない飛鳥、古代が脈々と息づく飛鳥のちょっといい話を味わい深い文と写真で紹介。」
取り上げられているのは、明日香村の栢森(祀られている水の女神さま)・細野、冬峠(良助親王冬野墓)・稲渕(南淵請安さんのお墓)豊浦(盗難にあった仏さま)など。桜井市からは、忍阪(石位寺の石仏とか鏡王女のお墓)・下(聖林寺の十一面観音像)・土舞台(芸能発祥の地)などが紹介されています。
さらに、持統天皇が飛鳥から足繁く通ったことで知られる、宮滝の吉野宮。その際には「芋峠」を通ったとされていますが、筆者はその旧道を歩いたりもしています。ちょっとした知識と覚悟と体力がないと歩けないような道だけに、とても興味深かったですね。
また、桜井市の聖林寺の十一面観音像についてのエピソードも面白かったです。廃仏毀釈の時代に、三輪の山に打ち棄てられていたような状態だった観音さまをフェノロサが見つけ、聖林寺へ移した…という逸話が有名ですが、これは事実ではないのだとか。今はもうお亡くなりになられた先代のご住職が、「白洲正子さんは文章はうまいけれど、時々いい加減なことを書くから困る」とおっしゃられていたそうです。
白洲さんは、和辻哲郎さんの「古寺巡礼」で紹介された逸話を事実として紹介していますがこれは正しくありません。「三輪の大神神社の神宮寺だった大御輪寺の住職が、廃寺になる前に兄弟子のいた聖林寺に預けた」というのが正解で、常々不満を口にしていたのだそうです。これは覚えておくべき指摘ですね。
こうした興味深いエピソードが多数紹介されていますので、飛鳥好きな私は最後までとても楽しめました。図書館で借りてきましたが、買い直して手元に置いておきたいと思います!