2012-11-06
大和の美と風土―街道をあるく
奈良の自然や寺社を訪ね歩く紀行文。奈良検定1級レベルのディープさです
奈良の各地の自然や寺社などを訪ね歩く紀行文。著者は、関西大学で美術工芸史の教鞭をとり、関西大学博物館長をも勤められている高橋隆博さんの著作です。
お寺や道など、歴史的な背景についても詳しく触れられていて、司馬遼太郎さんの「街道をゆく」的な内容というよりも、奈良検定の受験の参考になりそうな内容です。奈良交通社の社内報「大和路」に連載していたものをまとめた内容ですから、奈良観光のプロが読んでもためになり、新発見があるようなものになっています。
本書では、大別して「室生・長谷の道」「山の辺の道」「柳生街道と奈良まち」「京街道と平城山」「當麻・葛城の道」「多武峰・飛鳥の道」「信貴・生駒の道」「郡山・矢田丘陵の道」「南山城の道」と分かれていて、それぞれ短い章に分割されています。
内容は濃い目で、目についたエピソードを挙げていくと、
●石上神宮の鏡池にいる魚「馬魚」(ワタカ。奈良県天然記念物)は、1914年に内山永久寺の本堂池から移された。1919年には東大寺の鏡池にも移されいて、廃寺となった大寺を忍ばせている
●円成寺にある浄土式苑池は、明治初期に埋め立てられ県道が通され、楼門のすぐ脇を車が走っていた。回復したのは1961年。後の1975年に学術調査が行われ、現在の姿になった。
などなど。奈良の渋いところが丁寧に紹介されていますから、よりディープに知りたい方にはオススメです。
ただし、それぞれの章の冒頭に、連載時そのままと思われる時事ネタ的な短い文章が掲載されているのですが、これが興ざめですね。「女性は子を生む機械」とか夕張市の破綻の話だとか、今改めて読むものでもないので、そこは単行本ではカットして欲しかったと思います。