鏝絵(こてえ)―消えゆく左官職人の技 (Shotor Museum)
漆喰で浮き彫り模様を描く「鏝絵」について、豊富な画像で紹介した一冊
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左官職人が鏝(こて)で漆喰を塗り上げて、レリーフ状に浮き彫り模様を描く「鏝絵(こてえ)」についての一冊。私は特に詳しいわけではありませんので、他にどんなマニアックな鏝絵の本があるのかは分かりませんが、「全国鏝絵見て歩き」などのコーナーも充実していて、写真も多め見ていて楽しい内容です。
ビジュアル中心ですが、本書では「鏝絵の誕生と広まり」として、静岡県生まれの左官職人・入江長八、通称「伊豆の長八」( Wikipedia )によって、江戸時代に作られ始めたことが紹介されています。明治に入りその弟子たちによって全国へ広まっていったものの、建築様式の変化から白壁とともに姿を消そうとしているそうです。もはや一般の住居に新しい鏝絵が描かれることはないでしょうし、とても貴重なものであることは間違いありません。
その図柄も様々で、縁起の良い恵比寿さまや鍾馗さまであったり、十二支・猫・龍・麒麟・鳳凰などの動物や、天女や女性像など、全国の職人たちが思い思いの鏝絵を描きました。特に、左官職人が冬の間は外で作業ができない北国では、春に神社へ奉納するための鏝絵を制作して冬を過ごしたりしたのだそうです。その姿はどこか素朴で、決して芸術作品として扱われるようなものでは無いかもしれませんが、どこか懐かしく和ませる雰囲気がありますね。
なお、本書で初めて知ったのですが、静岡県の松崎町には「伊豆の長八美術館」という、長八の代表作約60点を集めた美術館もあるのだとか。いつか行ってみたいですね。
1996年に発売されたやや古い本ですが、今見ても内容は色あせていません。ただし、この本を手がかりに全国の鏝絵を見て回ろうと思うと、おそらくすでに取り壊されてしまった物件も多いと思われます。画像も豊富で、特に詳しい知識がなくても気軽に楽しめる一冊ですので、興味がある方は探してみてください。