奈良を知る 日本書紀の山辺道
三輪・磯城・纒向・布留・笠縫邑・穴師。日本書紀から山辺道エリアを考察した良書
「日本書紀の大和」「日本書紀の飛鳥」などの著作があるツル井忠義さんの作品。元奈良新聞文化記者で、唐古・鍵遺跡、纒向遺跡などの発掘調査を取材・報道し、取締役編集局長を経て、青垣出版代表取締役・倭の国書房代表をなさっている方なんだとか。私が普段から手にとっているような、奈良に関する渋めな本たちは、この方の元から生み出されているんですね!ただただ感謝です(笑)
本書は、タイトルどおり、山の辺の道(日本書紀では「山辺道」)に沿った三輪・磯城・纒向・布留などを扱っています。最古の神社・三輪神社、箸墓などの巨大古墳群、石上神宮や大和神社など、歴史的に重要な場所ばかりですが、それらの土地を日本書紀の記述を引用して検証すると、また違った視点から見つめられます。神話の時代から古墳時代ごろが中心ですが、人々を護ったり祟ったりする神々の気配が濃い、特別な土地だったことが分かります。
箸墓古墳の章では、箸墓古墳を考える上で重要なキーワードとなる「大市(おいち)」という地名は、大和の方言で「猫」のことかもしれないという説が紹介されたり、天神山古墳と黒塚古墳から出土した古代の鏡の違いについて語られたり、大和武尊の東征ルートについて検討してみたりと興味はつきません。
また、崇神天皇から始まったとされる三輪王権から、後に現れたかもしれない佐紀盾列古墳群を築いた佐紀王権まで話が及び、山の辺の道付近で展開された「謎の四世紀」から、より世界史レベルに近づいた「激動の五世紀」への移り変わりも感じられるようになっています。
古代史や山の辺の道周辺地域の基礎知識がない方にはやや難しい内容だと思いますが、こうして時代を区切って特定エリアを見ていくことで、新たに気付かされることも多いので、読んでみるだけの価値はあるでしょう。磯城や笠縫邑、穴師、和爾坂など、これまでよく調べたことが無かったエリアも、とても興味深く読めました。図書館で借りてきたものですが、ぜひ購入しておきたいと思います!