奈良 近代文学の風景
奈良を舞台にした近現代の文学作品を紹介。「文学不毛の地」などとんでもない!
「文学不毛の地」などと揶揄された奈良。この土地を中心に詠まれた「万葉集」などの素晴らしい作品がある一方で、近代・現代の文学に関しては、そのイメージと比べて決して多くはなかったそうです。私はそれほど文学作品に詳しいわけではありませんので、それが正しいかどうかは分かりませんが、パッと連想できるものは決して多くありません。
本書は、奈良を舞台にした文学作品を丹念に集め、その土地と背景を解説した一冊です。昭和から平成に移り変わったころ、奈良新聞誌上に「まほろば巡礼-大和路文学散歩」として連載したものへ加筆・修正を加えた内容となっているそうです。
本書に登場した作品の中で、私が読んだことがあるのは、和辻哲郎「古寺巡礼」、亀井勝一郎「大和古寺風物詩」、堀辰雄「大和路」、会津八一「鹿鳴集」くらいでした。しかし、目次の一覧を観るだけでも、奈良が文学不毛の地などと呼ばれるのが信じられないくらい、有名な作家たちが、奈良での出来事について書いていることが分かります。
正岡子規「くだもの」、井上靖「天平の甍」、立原正秋「春の鐘」、石川達三「自分の穴の中で」、森鴎外「奈良五十首」、川端康成「二十歳」、西条八十「美しき喪失」、芥川龍之介「龍」、泉鏡花「紫障子」、山岡荘八「柳生の金魚」、筒井康隆「筒井順慶」、三島由紀夫「豊饒の海」、幸田露伴「二日物語」水上勉「壺坂幻想」、折口信夫「死者の書」、谷崎潤一郎「吉野葛」、志賀直哉「奈良」などなど。計36の作品が紹介されています。そうそうたるメンバーですよね!
無知な私が全く知らない作品も数多く紹介されています。例えば、島村利正「奈良登大路」という作品は、奈良や京都、鎌倉などへの爆撃を行わないように米軍部へ進言した、古都の大恩人であるラングドン・ウォーナー博士や、今なお残る仏像写真の「飛鳥園」さんの方たちとの交流を描いているそうです。作者自身が飛鳥園の元社員で、後に芥川賞の候補作を世に送り出しているというのですから、色んな方がいらっしゃるものですね。
決して華やかな内容ではありませんが、奈良の魅力が伝わってくる良書だと思います。これをきっかけに、色んな小説などにも手を広げていきたいですね。