空とぶ鉢―国宝信貴山縁起絵巻より (やまと絵本)
国宝の絵巻物が絵本に!日本の漫画文化とSFのルーツです
日本四大絵巻のひとつで、国宝に指定されている「信貴山縁起絵巻」。この絵巻物を、奈良市在住の作家・寮美千子さんが絵本として再構成した作品です。
信貴山縁起絵巻( http://goo.gl/ttGMJ )とは、奈良県生駒郡平群町に位置する古刹「朝護孫子寺」に伝わる、平安時代に描かれた絵巻物です。全3巻、全長35mにもおよび、中興の祖とされる命蓮にまつわる説話を描いています。最も有名なシーンは、「山崎長者の巻(飛倉の巻)」で描かれた、命蓮が強欲な商人の米倉を鉢に乗せて空に飛ばすところでしょう。たくさんの米俵が連なって空を飛ぶ場面は痛快で、幻想的ですらあります。まさに、日本の漫画文化のルーツであり、SFのルーツですね。
そんな絵巻物が絵本になって、お子さんが読んでも、大人が読んでも楽しめる作品になりました。描かれているのは「飛倉の巻」の有名なシーンで、絵に添えて平易で分かりやすい文章が付けられていますので、大人でも楽しく読めました。
絵本の最も重要な要素は「絵」ですが、本書では信貴山縁起絵巻からセレクトしています。つまり、平安時代から伝わる絵巻の絵を、そのまま現代の絵本に使用するという、ある意味、逆転の発想ですね。しかし、もちろん絵巻そのまま使用するのではなく、一部を拡大したり、つなぎの部分を削ったりしているため、とても読みやすくなっています。人々の表情や動き、一部に残る鮮やかな色彩がはっきりと見て取れるので、改めてこの絵巻の楽しさが伝わってくるようでした。
信貴山縁起絵巻は、千年も読み継がれてきた絵巻物ですから、絵もストーリーも素晴らしいものであることは間違いありません。そんな作品が絵本になることで、その楽しさのエッセンスが凝縮したような、とても濃密な作品に仕上がっていました。ぜひたくさんの方に手にとって欲しいと思います。
この本をお子さんに読み聞かせて、奈良好き・日本美術好きの英才教育をするのもいいですね!
また、この絵巻の内容をより詳しく知りたい方は、「信貴山縁起絵巻―躍動する絵に舌を巻く」( http://goo.gl/pCLZq )という本がオススメです。合わせてどうぞ。