面白かった「奈良関連本」まとめ(2015~2016版)
2015年から2016年にかけて読んだ、面白かった「奈良関連の本」をまとめました。興味深かった・もう一度読みたいなど、選んだ理由はいろいろですが、初心者向けというよりも、歴史本などかなりディープなものが集まりました。ご参考になるかどうかは不明です(笑)
「知らない奈良」が見つかる本が好き
普段から「読書」を趣味にしている私。「【奈良住】読書リスト」というページで、メモ代わりに簡単な感想文なども掲載しています。
久々に「面白かった奈良関係の本などを振り返っておくか」と年始に思ったものの、昨年2016年は「67冊」分の感想文しか書いていませんでした。
「ブログの趣旨と外れている」といった理由から、読んでもブログに書かなかった本もいくつかあるので正確な数ではありませんが、2015年は「133冊」、2014年は「163冊」、2013年は「254冊」だったことと比べると、寂しすぎるほど減ってしまいました。
しかし、これはじつは、2016年秋に発売された著作『奈良を愉しむ 弘法大師空海が歩いた奈良』の準備の影響が大きいのです。
この参考文献を手当たり次第に読み漁り、必要なものは何度も重ねて読み込んでいく必要がありました。また、発売前に書籍の情報を漏らすこともできませんから、うかつに「こんな本を読んでます」とも言い出せないため、これら(主にお大師さま関連、さらに遣唐使や当時の歴史についての本など)についてはカウントされていないんですね。
……ということに気づいて、自分でもかなり驚きました(ここまでが言い訳です)。
そこで、2015年くらいにまで範囲を広げて、個人的に面白かった(興味深かった・もう一度読みたい・ぜひ人にお勧めしたいなど)「奈良関連の本」をまとめてみました。
「こんな奈良、知らなかった!」というものが印象に残りやすいこともあって、ちょっと硬めの内容の変化球的なものが多いですが、読みながら知的興奮状態に陥いったものも少なくありません。何らかのご参考になれば幸いです。
奈良の歴史や風物についての本
正倉院文書の世界―よみがえる天平の時代
正倉院に保管されている「正倉院文書」について、わかりやすくその魅力を解説した一冊。正倉院展で展示されていても、他のきらびやかな宝物に目を奪われがちですが、本書ではその楽しさが存分に伝わってきました。
正式文章の裏側が再利用されたものは、役所内の事務的な文章に使われたりします。当時の写経所に働く人々の生活がリアルに伝わってくるような内容が残っていたりして、これがめっぽう面白いんですよね。「首都の役場に勤務する臨時職員」というようなイメージで、サラリーマンの悲哀が伝わってきます。またぜひ読み直したい一冊です。
●【紹介記事】正倉院文書の世界―よみがえる天平の時代 (中公新書) (by【奈良住】読書リスト)
仏師たちの南都復興: 鎌倉時代彫刻史を見なおす
平氏の軍勢によって引き起こされた南都焼討。その復興事業から、運慶・快慶らを擁した「慶派」が勢力を伸ばし、次第に他派を圧倒していった。そんな慶派中心の史観を丹念に再検証し、違った見方を提示しています。かなり学術的な内容で難解な部分はありますが、施主となった朝廷・摂関家・幕府・寺家の思惑や、仏師たちの勢力争いなどが解説されていて、仏像好きとしてはぐいっと引き込まれました!
東大寺と興福寺の各堂塔について、どのような復興計画がなされたのかを丹念に検証しており、当時の様子が浮かび上がってきます。今まで気づかなかった南都復興の様子が伝わってくる良書でした。
●【紹介記事】仏師たちの南都復興: 鎌倉時代彫刻史を見なおす (by【奈良住】読書リスト)
大和のたからもの (奈良を愉しむ)
春日大社の元権宮司で、現在奈良県立大学の客員教授をなさっている岡本彰夫さんのご著書です。近現代の工芸品や芸術家などどもふくめ、奈良に伝わる古物の世界を、美しい写真と豊富な知識から紹介しており、読み応えたっぷりでした!
例えば、新薬師寺の十二神将(天平時代)の中で、1体だけ江戸時代の地震で砕けてしまい、作り直された「波夷羅大将像」の作者・細谷而楽という人物の紹介なども。書であり、画であり、工芸品であり、まだまだ私の知らない奈良の素晴らしいものがたくさん見られました。
●【紹介記事】大和のたからもの (奈良を愉しむ) (by【奈良住】読書リスト)
「うましうるわし奈良」の10年
JR東海「うましうるわし奈良」10周年を記念して、これまでのポスターやキャッチコピーなどを収録した一冊。奈良の一番美しいところを、一流のプロが切り取った写真が美しいのはもちろん、そこに添えられるキャッチコピーが絶妙です。インパクトのあるものから、心にじわっと染みてくるようなものまで、ページをめくるたびにため息がもれました。
●「日本にしかなく、奈良にしかなく」(飛火野の鹿たち)
●「日の光、月の光、白鳳の光。」(薬師寺・薬師三尊像)
●「人は山に神を想う。山は人に神を結ぶ。」(大神神社・三輪山)
●「見ているのは、史跡ではなく、千三百年の物語。」(平城京・西大寺)
などなど。折に触れて読み返したい一冊です。
●【紹介記事】「うましうるわし奈良」の10年 (by【奈良住】読書リスト)
万葉集と日本人読み継がれる千二百年の歴史
古代から現代まで、万葉集がどう読まれ、写され、解釈され、伝えられてきたかを時代順に読み解いた一冊。万葉集が現在私たちが知っているような形になるまで、先人たちのさまざまな努力がありました。紀貫之、紫式部、藤原定家、仙覚らが読んだ『万葉集』はどのようなものだったのかを丹念にたどった、読み応えるのある良書です!
「万葉の時代には、天皇と民衆は歌を詠み合うことで心を通わせていた」というイメージが生まれ(決して事実ではありません)、後の時代にも、天皇の政治的な地位が低下するごとに万葉の時代が回顧され、万葉集が注目される、そんなことも繰り返したのだそうです。万葉集をより深く理解できるきっかけになってくれます。
●【紹介記事】万葉集と日本人読み継がれる千二百年の歴史 (角川選書) (by【奈良住】読書リスト)
『大和名所図会』のおもしろさ
江戸時代の奈良の風景と風俗を知ることができる、1791年発刊の名所案内記「大和名所図会」。その当時の観光案内書のようなもので、江戸時代の奈良の様子を伝聞も織り交ぜて活き活きと描いています。本書は300ページ近いボリュームで、114もの土地を紹介した充実の内容で、読み応えバツグンでした。
廃寺になった内山永久寺などの栄華を知ったり、春日大社の茶屋で休憩する男たちが鹿せんべいを与えていたり。江戸時代に天皇陵がどのような扱いだったのか、飛鳥の石造物がどんな様子だったのかなどなど。いまは見られない風景と、いまも変わらない風景が見られ、かなり楽しめます!
●【紹介記事】『大和名所図会』のおもしろさ (上方文庫別巻シリーズ) (by【奈良住】読書リスト)
跋扈する怨霊―祟りと鎮魂の日本史
古代から中世にかけての歴史を理解する上で欠かせない「怨霊」について考察した一冊。時の権力者から排除され、非業の死を遂げた歴史上の人物たちが、後に「怨霊」として認識されていく過程を解き明かした、興味深い内容です。
●藤原四兄弟を疫病で葬ったとされる長屋王
●実兄・桓武天皇を震え上がらせた早良親王
●宮中の落雷から雷神として恐れられた菅原道真
●日本最大の怨霊とさえ呼ばれる崇徳院 など
奈良時代ごろは、恨みを残しながら死に追いやられたものは、その当事者だけに祟るものとして考えられていましたが、平安時代になり、社会的な怪異も引き起こすされるようになりました。平城京や平安京の様子を思い浮かべながら読んでみてください!
●【紹介記事】跋扈する怨霊―祟りと鎮魂の日本史 (歴史文化ライブラリー) (by【奈良住】読書リスト)
奈良まち奇豪列伝
幕末から明治大正戦前まで、奈良まちで活躍したユニークな人物4名を取り上げた偉人伝。一般的にはあまり名前を知られていない、風変わりな奇豪たちが登場します。
●まげ・ひげ姿の漢方の名医「石崎勝蔵」(1845~1920)
●呑んだくれの古美術写真師「工藤利三郎」(1848~1929
●自作した飛行機で空を飛んだ「左門米造」(1873~1944)
●伝道70年。最晩年を奈良で司祭した「ヴィリヨン神父」(1843~1932)
私が知っていたのは、写真家・小川晴暘さんが「飛鳥園」を立ち上げる以前、奈良の仏像などを写真に収めていた工藤利三郎さんだけでした。その分野の先駆けともいうべき方で、興福寺・阿修羅像の修復前(手先が破損した状態)の写真や、東大寺大仏殿の1909年の解体修理前の写真など、奈良の貴重な風景を今に伝えてくれた大恩人です。そんな方の評伝が読めるのは嬉しいですね。
私の知らない奈良の姿がいきいきと描かれていて、とても面白かったです。かなり渋い内容ですが、興味のある方はぜひ!
●【紹介記事】奈良まち奇豪列伝 (by【奈良住】読書リスト)
鴎外「奈良五十首」を読む (中公文庫)
大正時代の文豪・森鴎外が、正倉院の開閉封などの仕事のため奈良に滞在して詠んだ「奈良五十首」について、その歌の意味や背景について解説した一冊。著者さんが丹念に足跡をたどったことで、大正時代の奈良の様子がリアルに浮かび上がっています。
正倉院を詠んだ「勅封の 笋(たかんな)の皮 切りほどく 剃刀の音の 寒きあかつき」、作業が休みになる雨の日に奈良の故事を訪ねて詠んだ「とこしえに 奈良は汚さんものぞ無き 雨さへ沙に 沁みて消ゆれば」など、雰囲気のある歌も少なくありません。
どなたでも読みやすいという内容ではありませんが、読みがいのある一冊でした。
●【紹介記事】鴎外「奈良五十首」を読む (中公文庫) (by【奈良住】読書リスト)
奈良関連の漫画や絵本、写真集など
天智と天武 -新説・日本書紀- (ビッグコミックス)
小学館「ビッグコミック」連載の『天智と天武~新説・日本書紀~』(※6巻まで読みました)。天智天皇と天武天皇、古代の日本を動かした兄弟の葛藤を活き活きと描いています。展開も早く、骨太な歴史ドラマが展開されています。
登場する蘇我入鹿は、国を私物化した悪徳政治家ではなく、革新的で聡明な男性として。また、乙巳の変で活躍した中臣鎌足は「=豊璋(人質として日本に来た百済の皇子)」として描かれるなど、独特な解釈も。蘇我倉山田石川麻呂、孝徳天皇、額田王、鏡王なども、活き活きと魅力的なのも嬉しいですね。大人でも熱中できるクオリティです!
●【紹介記事】天智と天武 1 -新説・日本書紀- (ビッグコミックス) (by【奈良住】読書リスト)
しかしか
写真家・石井陽子さんが、奈良と宮島に通いつめて撮影した「鹿しか」写っていない写真集。町中にいる鹿たちですが、人間の姿が写っていないため、まさに鹿の惑星のような不思議な雰囲気を感じさせています。アイディアですね!
カメラによって切り取られた鹿たちの姿は、一頭ごとに違います。ひとりでぼっちで歩く鹿、集団で列を作って歩く鹿、喧嘩する鹿、顔を寄せあってひそひそ話をしているような鹿、全力で走る鹿、ジャンプしている鹿。トータル207頭の鹿が登場するとか。見ていて楽しくなる一冊でした。
●【紹介記事】しかしか (by【奈良住】読書リスト)
妹背山婦女庭訓 (橋本治・岡田嘉夫の歌舞伎絵巻 5)
歌舞伎通の作家・橋本治さん、画家・岡田嘉夫さんによる「歌舞伎絵巻」シリーズ第5巻。645年の「大化の改新」前後を舞台としていますが、大きく脚色を加え、色恋沙汰から人情話まで何でもあり。蘇我入鹿が悪の親玉の怪物として描かれ、まるでヒロイックファンタジーのような展開が繰り広げられます。
絵本というにはテキスト量も多めで、読み応えもありますし、お話としても十分面白いですね。美しい絵と合わせて、夢中になって読み進められました。同じシリーズの「義経千本桜」も面白かったですよ!
●【紹介記事】妹背山婦女庭訓 (橋本治・岡田嘉夫の歌舞伎絵巻 5) (by【奈良住】読書リスト)
弘法大師空海の関連の本など
空海の風景(上・下)
司馬遼太郎さんが、謎多き巨人・空海の生涯を描いた上下巻の大作。膨大な資料にあたり、取材も行い、その上で著者の想像も膨らませながら描いていきます。資料が遺っていないことも多いため、通説にあれこれ盛って作品化していますが、だからこそドラマチックで面白い!大河ドラマにしてほしいくらいの濃さでした。
空海の生涯を解説する本は多数ありますが、読み物としてここまで引き込んでいくパワーがあるものは他にありません。かなりのボリュームですが、弘法大師空海に興味を持たれた方は、まずここから入るのもいいかもしれません。
空海はいかにして空海となったか
高野山大学・武内孝善さんのご著書。謎に包まれた弘法大師空海の前半生を丹念に検証し、独自の解釈を加えてその秘密を追っています。著書の執筆にあたり、たくさんの空海関連の本を読みましたが、本書は明快でわかりやすく、しかも独自の視点なども加えられていて読み応えたっぷりでした。
予備知識がないとさすがに理解しづらいかもしれませんが、興味のある方はぜひ!
阿・吽 (ビッグコミックススペシャル)
比叡山を開いた最澄、高野山を開いた空海。天才宗教家たちの若いころの姿を描いた、おかざき真里さんのコミック『阿・吽』。最新の4巻まで読了していますが、これは抜群に面白いです!
同時代に生を受け、お互いを意識し合いながら仏の道を極めた2人の天才宗教家たちの、若き日の苦悩と葛藤が描かれます。死が隣り合わせの時代、誰もが救いを求めていました。登場人物もあっという間に命を落とすなど、僧侶でありながら人々を救えない、自身への歯がゆさや苦悶などもしっかりと伝わってきます。完結するまで楽しみに追っていきます!
●【紹介記事】阿・吽 1 (ビッグコミックススペシャル) (by【奈良住】読書リスト)
【番外】弘法大師空海が歩いた奈良 (奈良を愉しむ)
2016年秋に発売になった自著です。ここに挙げた作品たちに劣らない……と言い張るつもりはありませんが、ささやかに宣伝させてください(笑)
真言宗の始祖である「弘法大師空海」は、高野山や京都、四国などが関係の深い土地として知られていますが、奈良もまた研鑽と修行を重ねた地として深い関わりがあります。
710年に藤原京から遷都し、唐の都・長安を模して造られた平城京は、若き日の弘法大師空海が歩いた土地でした。東大寺や大安寺などの巨大な官寺にも出入りしていたことは間違いありません。高野山と京都を往来する途中には大和盆地で休息をとり、溜池を造る相談も受けたりしたでしょう。
本書では、そんな空海と奈良の接点を丹念に追いました。平城京から平安京へ都が遷ったあとの奈良の様子も、おぼろげながら浮かび上がってくると思います。興味をお持ちくださったかたは、ぜひお手にとってみてください!