2011-07-17

これなら分かる『古事記・日本書紀』入門書あれこれ

これなら分かる『古事記・日本書紀』入門書あれこれ

難解で分かりづらいと思われがちな、日本の歴史を記した「古事記」と「日本書紀」。2012年に「古事記編纂1300年」を迎えることもあり、これからますます注目されていくでしょう。私も苦手意識を持っていた一人ですが、読みやすい漫画や入門書から読み始めて、今では大好きになりました。関連書籍をまとめてご紹介しておきます。


マンガで読める古事記・日本書紀 2種類

古事記関連マンガ-01
古事記・日本書紀に関して、私はほとんど知識がなかったので、これらの漫画を読むことから始めてみました。これさえ読んでおけば…とまでは言いませんが、複雑なストーリーもすんなりと頭に入ってきます


お手軽・格安な「まんがで読破」シリーズ

古事記関連マンガ-02
古事記・日本書紀の世界を知るために、人気の「まんがで読破」シリーズから(般若心経はオマケです)


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古典を読みやすくする「まんがで読破」シリーズの古事記版。あの膨大な古事記の内容を、わずか185ページにまとめるのですから、普通にストーリーは追いません。学生たちのレポートを先生が手助けしてまとめていく、という形で内容を紹介していきます。細かいところには触れていないため、内容の概略としては不完全でしょう。古事記を楽しむための最初の一冊としては、あまりオススメできません。

しかし、エピソードを「読み解く」という形式になっているため、「生まれた神々の名前を音読みすると、家作りの基本が示されている」「ヤマタノオロチは川の氾濫を表している」など、違った解釈を提示してくれています。この本を読んでも、とても古事記を読破したとは言いがたいですが、読み解き方が分かるメリットはありますね。

また、最後には、倭建命(ヤマトタケルノミコト)の逸話で19ページ、神功皇后で14ページで紹介されていますが、やはり全体的に駆け足です。時間のない受験生用や、他の古事記本の副読本くらいと考えると丁度いいでしょう。


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古典を読みやすくする「まんがで読破」シリーズの日本書紀版。こちらも190ページと短めですから、全30巻の日本書紀を駆け足で紹介しています。また、漫画の絵も、古事記版よりも今風に。各天皇のキャラを見ていてもそれなりに楽しめますね。

オーソドックスにストーリーを紹介していて、神代はわずか50ページほど、後は天皇紀になります。キャラが弱い天皇の部分はサッと紹介して、重要エピソードを追っていくため、テンポよく読めました。抜けた部分も少なくないと思いますが、ちゃんと壬申の乱の後、持統天皇が軽皇子に皇位を譲るところまで描かれています。古事記とは違って、余計な傍流のエピソードが少ないからこそですが、これでこそ「まんがで読破」でしょう。

ただし、古事記との違いなどがほぼ触れられておらず、そこだけは残念。古代日本の天皇たちが活躍するストーリーが読みやすく、面白く紹介されていますので、たくさんの方に読んで欲しい作品です。


※この「まんがで読破」シリーズには、この他にも「般若心経」「源氏物語」「枕草子」「旧約聖書」など、興味深いラインナップが並んでいます。手っ取り早く内容を把握するには最適ですので、興味がある方はどうぞ。


より詳しい『まんがで読む古事記』シリーズ

古事記関連マンガ-03
『まんがで読む古事記』シリーズ。一冊980円と、ややお値段ははりますが、丁寧に描かれていてとても読みやすくなっています


まんがで読む古事記まんがで読む古事記
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まんがで読む古事記 第2巻まんがで読む古事記 第2巻
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まんがで読む古事記第3巻まんがで読む古事記第3巻
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絵はやや古臭い感はあるものの(Amazonの販売ページで一部確認できます)、とても読みやすく分かりやすい内容です。

古事記の本来の構成どおりに話が進んでいきますし、誕生した八百万の神々も、ちゃんと主要な方は紹介されていますし、端折り過ぎたりしていません。求めるレベルは人それぞれだと思いますが、古事記を知るには最適の入門書だと思います。

本によっては、神さまの名前がカタカナ表記だけのものもありますが、この本では漢字にカタカナの振り仮名になっているのもいいですね。片仮名のみだとただの暗号にしか見えない名前ですが、漢字があることで意味を持ってきます。また、巻末の系譜図も読みやすく、後から整理するのにもいいですね。

現在、3巻まで刊行されていますが、大雑把には以下のような項目が描かれています。

●1巻 - 天地の始まり・国生み・伊邪那美(イザナミ)の死・伊邪那岐(イザナギ)の黄泉の国への旅・須佐之男(スサノオ)と天照(アマテラス)の誓約・天岩屋戸・八俣の大蛇(ヤマタノオロチ)退治。

●2巻 - 因幡の白兎・大穴牟遲(おおなむじ=大国主大神)の死と再生・根の国の須佐之男・少名毘古那(スクナビコ)と大物主神(オオモノヌシノカミ)・国譲り・天孫降臨・海幸と山幸。

●3巻 - 神倭伊波礼毘古(カムヤマトイワレビコ=後の神武天皇)の東征・神武天皇のお妃探し・綏靖天皇以下の八代・崇神天皇の四道将軍派遣・垂仁天皇と狭穂彦(サホビコ)の反乱

2巻目までは神の代の出来事で、昔話などで語られるものも多いエピソードです。読み進めていくと聞き覚えのあるストーリーがいくつも登場してきますし、中には古事記が原典となっていたと広く知られていないものもあります。何世代にもわたる壮大なエピソードですが、読みやすくまとまっていると思います。

一方、3巻からは人の代に入り、初代・神武天皇が即位するまでから始まって、天皇家を中心とした国内統一のエピソードになります。もちろん、神話的な要素も多く、荒唐無稽だと思われる展開も見られますが、この当たりのストーリーは他ではあまりしっかりと語られないことも多いので、目新しく感じられるかもしれません。

個人的には、古事記の基本的な部分を知るだけなら、まずは1巻と2巻だけで十分でしょう。しかし、3巻(と、これから刊行されるかもしれない4巻以降)の内容もなかなか興味深いものですので、興味がある方はどうぞ。


初心者向けの古事記・日本書紀本2冊

古事記関連の初心者本-01
漫画と同時に読んだのがこの2冊です。古事記関連本は何冊も刊行されていますが、店頭でさんざん見比べただけに、とても読みやすかったです


ワンコイン「あらすじとイラストでわかる~」

あらすじとイラストでわかる古事記・日本書紀―日本人の原点を知るあらすじとイラストでわかる古事記・日本書紀―日本人の原点を知る
知的発見!探検隊

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あらすじとイラストでわかる古事記・日本書紀』というタイトルどおり、簡単なあらすじに、分かりやすいイラストがついて、古事記と日本書紀の内容を解説した本です。コンビニなどでも販売されるような、いわゆる「500円本」ですから、紙質は良くありませんが、これで239ページのボリュームですから、お得感はありますね。

構成は、まずは見開き2ページであらすじを、次の2ページで解説や裏話を掲載しています。あらすじ部分はやや駆け足になっていますが、ちゃんとそのエピソードにはどんな意味が込められているのか、どんな歴史的な背景があったのかなどが解説されているので、入門編としては最適ですね。

文中の神さまの名前の表記は、ほぼカタカナのみで漢字は記されていませんが、気軽に読める入門書と割りきってしまえば、それもデメリットにはならないでしょう。古事記という壮大なストーリーの概要と、表面をなぞっているだけでは分からない背景に触れられます。

ただし、日本書紀に関しるページは全体の4分の1ほどで、かなり駆け足になっています。古事記と日本書紀の違いを簡単に把握できる程度でしょう。


古事記関連の初心者本-02

『あらすじとイラストでわかる古事記・日本書紀』の一部(須佐之男と天照大御神の誓約のシーン)。まずは、簡単なあらすじが見開き2ページで紹介されます。イラストは素朴系ですね

古事記関連の初心者本-03
次の2ページで、このエピソードに対しての背景などが解説されます。意味が分かりづらい逸話も多いだけに、こんな説明があると分かりやすいですね


イラスト多めで読みやすいシリーズも

神話の舞台を旅する 古事記と日本書記 神話発祥の地へ行ける地図ガイドつき(主婦の友ベストBOOKS)神話の舞台を旅する 古事記と日本書記 神話発祥の地へ行ける地図ガイドつき(主婦の友ベストBOOKS)
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神話の舞台を旅する 古事記と日本書記』は、イラストや写真を多用した、よくあるタイプの入門書です。内容は盛りだくさんですが、図で説明してあると分かりやすいですね。

また、古事記と日本書紀の内容を別々に追うのではなく、古事記のエピソードをベースに、それが日本書紀ではどのように扱われているかという、両者の違いが解説されているため、とても分かりやすくなっています。好みはあると思いますが、よりしっかりと知りたい方にはコチラがお勧めですね。


古事記関連の初心者本-04

『神話の舞台を旅する 古事記と日本書記』から、同じく誓約のページを。図が入ってよりビジュアルで伝わってきます。理解しやすいでしょう

古事記関連の初心者本-05
同じページの下部コラム。「日本書紀とはココが違う」という項目があり、内容の違いを解説してあります。この両者で全く扱いが異なるエピソードも多いので、これは分かりやすいですね。「古事記深読み」では、読み解き方の解説もあります

古事記関連の初心者本-06
書名に「神話の舞台を旅する」とあるくらいですから、関連地のマップなども豊富です。実際にこれを頼りに現地に行くかどうかは別として、今でも日本各地に関連の土地があるのが理解できていいですね


「古事記編纂1300年」に向けて予習しましょう

2012年には、「古事記編纂1300年」を迎えることもあり、これ以外にもたくさんの関連書籍が登場してくるでしょう。萌え要素が入った『萌ゆる古事記』『重要ポイントとマンガでわかる! 古事記・日本書紀』など、ピンからキリまでありますので、ぜひ気軽に古事記・日本書紀の世界に触れてみてください。なかなか面白いですよ!



※2012/02/20 追記 安彦良和さん作品

古事記関連マンガ<追記>
安彦良和さんが描いた古事記の世界。中公文庫コミック版から発売されていますが、なかなか見つからないかもしれません。古事記巻之一からは『ナムジ―大国主』全4冊、巻之二から『神武』全4冊、巻之三から『蚤の王―野見宿禰』1冊。計9冊あります


ナムジ―大国主 (1) (中公文庫―コミック版)ナムジ―大国主 (1) (中公文庫―コミック版)
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神武―古事記巻之二 (1) (中公文庫―コミック版)神武―古事記巻之二 (1) (中公文庫―コミック版)
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蚤の王―野見宿禰 (中公文庫―コミック版)蚤の王―野見宿禰 (中公文庫―コミック版)
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安彦良和さんが古事記をテーマに描いた作品群です。第一巻の後書きが「平成元年7月」とあり、この頃に発表された作品たちが、1997年に文庫化されたものです。

原田常治さんという方が著した『上代日本正史―神武天皇から応神天皇まで』『古代日本正史―記紀以前の資料による』という説をベースとしているそうで、古事記本来のストーリー展開からは離れ、作者によって再構築されています。

詳しくは書きませんが、もともと古事記のストーリーには不自然さが目立つ点も多く、どうしても「神話だから」だけで片付けられてきました。それをより自然な流れになるように再配置されているため、スムーズに展開しています。古代を舞台にした英雄譚として本当に良くできていると思います。

古事記を独自に解釈しているため、初心者の方に勧めていいものか迷いますが、単純にヒロイックファンタジーとしても面白いですから、ぜひ手にとってみて欲しいですね。真っ先にこちらを読んでもいいですが、もとのストーリーを知っておくと斬新な解釈がされている部分が分かって、思わずニヤリとしてしまうでしょう。オススメです!


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