2014-12-14

【感想メモ】リトルプレス【奈良充】を作って思ったこと

【感想メモ】リトルプレス【奈良充】を作って思ったこと

「なるべく安く!」を目指して作ったリトルプレス【奈良充(ならじゅう)】。編集作業には出来るかぎりフリーソフトを使用。当初の予定とは違い、印刷製本は外部へ発注しましたが、費用は3万円ちょっとで済んでいます。作業自体はとても楽しかったですので、ご参考までにあれこれ書いておきます。


なるべく安上がりに。出来る限り自力で!

リトルプレス(ZINE)【奈良充】を作った目的は「ブログの読者さんとは違う、紙媒体が好きな方へリーチしたい」でした。

とはいえ、予算的な余裕もありませんし、作業も簡単に済ませたかったため、製作にあたってこんなことを考えていました。

●「書籍版」と「電子版」を共通フォーマットで作る
●使用するソフトもフリーソフトを優先する
●印刷や製本も、できれば自力で。安く済ませる
●基本的にすべての作業を自分で完結させること

私自身は完全にネットに依存しているため、紙媒体が好きな方の感覚と大きくずれていることは自覚していましたので、事前にいろいろと本を読んだり、個人的に好きなリトルプレス(やフリーペーパー)を参考にしながら、少しずつ詰めていきました。

リトルプレス【奈良充】を作って思ったこと-08
参考にした書籍など。「手作りで可愛いリトルプレスを作る」という内容のものが多いですが、編集や発注などについて詳しく書かれた『リトルプレスをつくる』(紹介記事)がもっとも参考になりました

リトルプレス【奈良充】を作って思ったこと-09
目標にさせていただいたリトルプレス。「BMC(ビルマニアカフェ)」さんが発行している『月刊ビル』(ブログ)。個人的に大好きで、サイズや紙質などあらゆる面で参考にさせていただきました


書籍版と電子版。共通フォーマットで作る

リトルプレス【奈良充】は、基本的に、紙に印刷して製本した「書籍版」がメインで、ネットでも「電子版」を並行して発行していきます。手間を省くために「電子書籍と紙の書籍、同じ原稿で両方作る」ということを目指しました。

電子書籍であれば、現在は「ePUB(イーパブ)」というフォーマットが主流です。

画面サイズに合わせて表示できる文章量を調整し、自動的にページ数を増減してくれるのが最大のメリットです。しかし、画像が多めの雑誌のようなレイアウトを目指そうと思っても、表示が崩れてしまいます。それを回避する方法もあるようですが、まだ仕様が統一されておらず、手を出しづらくなっています。

このため、今回はクラシックに「PDF」で制作することにしました。

昔と違って、PDFの書き出しも簡単になっていて、Microsoft「Word」のようなソフトで原稿を作成し、それをPDFで出力するだけです。


使用するソフトもフリーソフトを優先する

「いかに安く済ませるか」もテーマにしていたため、使用するソフトも出来る限り無料のものを使っています(古いWindows機で作業しています)。

●無料オフィススイート「LibreOffice」の『Writer』(Wordのようなものです)

●無料のグラフィックソフト「GIMP」(窓の杜

●Adobeの「illustrator」の代わりに「Inkscape」を使用しようと思ったのですが、どうしても手に馴染まず、イラレを使用しました。

プロの方であれば、Adobeの「InDesign」などを使用することが多いようですが、そんな高価なものには手を出さないようにしました(笑)

私は基本的にテキスト屋ですし、HTMLもCSSもテキストで書き出します。Wordのような無駄な機能が多いライティングソフトは大嫌いでしたが、イライラしながらも少しずつ使えるようになりました。

ただし、こうした方法を選んだことで、デザイン上の制約もあります。

「1ページ全面に背景画像や色を敷くこと」
「写真などを誌面からはみ出して使うこと(裁ち落とし)」

用紙の外側にわずかな隙間が発生する可能性があり、こうした普通に見られるデザインが出来ないケースもあるとか。

同人誌などを作る方が増えてきたのにともない、格安の印刷会社さんが多数登場していますが、外部へ発注すると微調整ができない可能性もありますので、覚えておくといいでしょう。


印刷や製本も、できれば自力で。安く済ませる

「安く作る」がテーマですから、製本も自分たちでやろうと考えていました。

媒体イメージは、16ページ前後・A5サイズ・中綴じ・フルカラー・100部ほど。(文字通りの)薄い本で、売れたら補充していくイメージでしたから、印刷から製本まで自宅でやり遂げることは可能でしょう。


【パターン1】いい印刷用紙を購入してきて、自宅のプリンターで出力。業務用のペーパーカッター(断裁機)を使ってサイズを整え、少しお高いホッチキスで中綴じする。

当初はこの完全自作パターンで考えていました。しかし、紙もインクも意外と安くありませんし、器具を揃えて自分たちで作業しなくてはいけません。どう安く見積もっても「1冊あたり150円ほど」になりそうでした。もちろん完成品のクオリティも落ちるでしょう。


【パターン2】印刷は業者に依頼(キンコーズでも可)。製本は自分でやる

印刷のみを外部で行って、製本は自分たちで行うパターンです。オンデマンド印刷の「キンコーズ・ジャパン」の場合、まとめて印刷を依頼すれば、断裁機を借りてその場でカットすることもできるとか。少ない部数であればこれで十分かもしれません。

それでもカラー印刷をお願いすると決して安いものではなく、「1冊あたり200円ほど」が限界です。白黒印刷であれば、印刷コストもかなり抑えられますから、白黒・少部数であればこの方法を選んでいたかもしれません。


【パターン3】印刷から製本まで業者へ依頼する

印刷から製本まで、すべて業者さんがやってくれるパターンです。条件にもよりますが、私の場合はこの方法がもっとも安上がりでしたので、これを選びました。


印刷製本を業者さんへ依頼した場合

私がお願いしたのは、「プリントパック」さんという印刷会社さんです。

あくまでも私の例ですが、「16ページ・A5サイズ・中綴じ・フルカラー」というイメージで、「用紙:半光沢紙(マットコート紙)」「厚さ:標準」「納期:通常(7営業日内)」などで選択して料金を調べてみると……、

●100部で「25,400円」(254.0円/1冊)
●300部で「26,600円」(88.7円/1冊)
●600部で「29,260円」(48.8円/1冊)など

印刷から製本までやってくれてこのお値段です!

印刷部数を増やすほど、1冊あたりのコストは劇的に安くなります。100部程度だと高価ですが、部数が増えても料金自体はそれほど変わりません。この例では、100部だろうが300部だろうが、トータルの料金は千円ほどしか違わないんですね。

ただし、多めに作って一冊あたりのコストを下げたとしても、売れなければ机上の空論に過ぎません。上の例で「600部作って実売は100部だけ」だと、1冊あたりほぼ300円ですからね。くれぐれも無理は禁物です。


リトルプレス【奈良充】を作って思ったこと-10

リトルプレス【奈良充】の印刷製本をお願いした「プリントパック」さん。激安で驚きました!「業者さんに印刷を依頼する、しかも製本までお願いする」なんてハードルが高いと思っていましたが、お安いサービスが続々と登場しているんですね

リトルプレス【奈良充】を作って思ったこと-11
印刷料金は、部数やページ数の多い少ない、中綴じか無線綴じかなど、条件はいろいろと変わってきます。細かく比較はしていませんが、無線綴じの少部数であれば、ここ「製本直送.com」さんなどを利用した方が安く上がる可能性もあります


リトルプレスの販売方法を考える

せっかく作ったリトルプレスですから、ひとりでも多くの方に読んで欲しいもの。

●自分でコミケやイベントなどで販売する
●ネットのオークションやフリマのようなサービスを利用する
●有料のものを販売してくれる(無料のものを配付してくれる)協力店を見つける

リトルプレスの販売では、京都の『恵文社一乗寺店』さん、大阪の『スタンダードブックストア心斎橋店』さんなどが有名です。しかし、こうした人気店では、毎日のように大量の販売依頼が舞い込んでいるそうですから、よほどの完成度がないと難しいかもしれません。

本を作ったからといって、それが売れるかどうかはまったく別のことです。完成したものをブログやTwitter・FacebookのようなSNSで宣伝していかなければ、誰の眼にも触れずに埋没してしまいます。無料のフリーペーパーですら、よほど気にいらなければ手にとられないのですから、有料版はもっと大変ですね。

私はまだ初心者ですので、知人が経営しているお店に販売をお願いしました。

・奈良きたまち「旅とくらしの玉手箱 フルコト」さん
・大和郡山市柳「とほん」さん

他の店舗での委託販売は、また時期をみてお願いしていきたいと思います(感想はまたブログでお知らせします)。


リトルプレス【奈良充】を作って思ったこと-12

我が家に届いた「600部」のリトルプレス!部数が増えれば単価は下がりますが、こんなに大量に販売できるかどうか自信はありません……。時間とともに古びたりしない内容なので、気長に続けていきます

リトルプレス【奈良充】を作って思ったこと-13
店頭販売用にビニールパックへ入れる作業が発生します。コミケなどで大量の同人誌を売りさばく方たちって大変なんですね!


電子書籍版の販売方法を考える

電子版の販売先は「パブー」さんにしました。

有料版の販売条件は、「本の公開にお金はかかりません。ただし、有料の本を販売され、実際に売れた時には1冊ごとに30%の販売手数料が発生します。」というもの。手数料を渡す形のため、初期費用などは不要です。

ePUB形式のものであれば、Amazon「Kindle」端末でも読めるフォーマット(MOBI形式)に変換してくれたり、ブックレビューコミュニティ「ブクログ」と連動していたり、大手だけにサービスも充実しています。無料で読めるものも多く、賑わっている印象がありますね。

ただし、PDFデータをアップロードして、そのまま販売するためには「プロ版」(月額540円)に契約する必要があります。後から気づいて加入しましたが、この点だけ誤算でした。

今回は見送りましたが、もう一箇所、検討していたのが「note」さんです。

こちらは「売上金額から決済手数料を引いた額の10%を、プラットフォーム利用料として申し受けます。 決済手数料は、売上金額の5%です。」という感じ。決済手数料などは安いですね。

後発のため利用ユーザー数はまだそれほど多くありません。しかし、本という形にこだわらず、写真やイラスト、音楽や動画など、何でも気軽に販売できるのが魅力です。ブログなどに掲載しているような内容を、一部は無料で、一部は有料で公開するなど、柔軟な使い方が出来そうです。

ただ、基本的にはnoteさんで購入したものは、noteさんのタイムラインの中で読む聴くという形になります。そのスタイルがちょっとピンとこなかったので今回は導入を見送りましたが、いつかこちらも利用させていただくかもしれません。


リトルプレス作りは「面倒だけど面白い」

リトルプレスを作った感想ですが、正直なところ「面倒だけど面白い」くらいです。

何かを発表してひとに伝えるという作業は、普段からブログでやっていることですから、私にとってそれほど新鮮味はありません。しかし、媒体が紙へ移るだけで、デザインから手順からがらりと変わり、また違った楽しさがありました。

開き直りのようになりますが、私はデザイン的な作センスはありません。プロの方の作品と比べてみると、詰めが甘かったりありきたりだったりするでしょうし、自分自身が数年後に見直してみても「恥ずかしい」と思ったりするかもしれません。仕方ないことです。そこは気にしません(笑)

最近ではフリーランスのデザイナーさんも数多く活動なさってますし、デザインが苦手な方は外部のプロの力を借りればいいでしょう。大げさな自費出版システムを使わなくても、自分の作品を「本」という形で世に送り出すことのハードルは限りなく下がっています。

難しい技術も金銭的な余裕も、以前ほどは必要なくなっています。楽しい遊びとして、リトルプレスづくりに取り組んでみるといいですね。


今後の【奈良充】でやってみたいこと

なお、今後ですが、せっかく書籍版と電子版の両方あるのですから、それぞれで色んな遊びを交えていきたいと思っています。

書籍版では紙で遊んだり(吉野の和紙を使ったり)してもいいですね。製本が不要な電子版では実験的なこともやりやすいでしょう。他の方の写真やイラストを紹介していくのも楽しそうです。

基本16ページほどの短いものにしたのも、印刷コストの問題だけではなく、小さな特集記事だけを掲載したかったから。雑誌のように毎号購入してもらうのではなく、気になる号だけ手にとってもらえれば十分です。色んな遊び方が考えられます。

「無料のフリーペーパーにしてよ!」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、無料であれこれ書くのはもうブログだけでお腹いっぱいなんですよね。

スポンサー様を募って運営することも考えましたが、とりあえず自分たちだけで気軽に続けていくことにしました。何部販売できるのかも不明ですから、広告媒体として価値も判断できません。とはいえ、飽きずに数年単位で続けていきますし、フリーペーパーのように早めに廃棄されたりすることはないでしょう。そのうち広告出稿を募集し始めるかもしれませんので、その際はよろしくお願いします(笑)


リトルプレス製作で参考にした書籍など

石川理恵さんの著作(紹介記事)。テーマや構成、造本、デザイナーや印刷所への依頼、販売方法など、とても実践的で役に立つ情報が詰まっています。個人的にもっとも役だった一冊でした。

同じく石川さんの著書(紹介記事)で、こちらは手作り要素を増やして、より安価に、より個性的なものを作る際に役立つ一冊です。本を手作りしてみたいならこちらをどうぞ。

別の方の著作ですが、『Petit Book Recipe ~リトルプレスの作り方~』という本もガーリーな手作り本について解説されています。

どこか懐かしいレトロ風味の印刷物がリーズナブルに依頼できる、大阪の印刷会社「レトロ印刷JAM」さんの本(紹介記事)。紙やインクなどの遊びがあって、いつかぜひ利用してみたいです!


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