2012-02-07

ヒスイの産地で『奴奈川姫』めぐり@新潟県糸魚川市

ヒスイの産地で『奴奈川姫』めぐり@新潟県糸魚川市

今年のお正月も、私の地元である新潟県糸魚川市に帰省してきました。ここは、大国主命(オオクニヌシノミコト)の妻になったと古事記に記される『奴奈川姫(ぬなかわひめ)』(沼河比売)に故郷であり、古代から勾玉作りに使用されてきた「翡翠(ひすい)」の産地でもあります。関連スポットをまとめてご紹介します。


大国主命の妻、建御名方神の母神です

新潟県糸魚川市の一帯は古くから「高志(こし)国」と呼ばれ、装飾品や祭祀の道具として貴重だった「ヒスイ(Wikipedia)」の日本最大の産地でした。

古事記の大国主の神話の段に、八千矛神(大国主命)がわざわざ出雲から700kmも離れた高志国まで出向き、美しいと評判だった奴奈川姫に求婚し、艶っぽい返答があった末、翌日に結ばれるシーンが描かれています(日本書紀には登場しません)。このストーリーを解釈すると、出雲の政権が、貴重なヒスイの最大の産地であった土地を支配下に置く、ということになるようです。

そして、この二人の間に生まれた御子と伝わるのが、古事記の国譲り神話に登場する「建御名方神(たけみなかたのかみ)」です。

地上を治めていた大国主命に、天孫が国を譲れと迫った際に、息子の一人の事代主はそれに同意しましたが、もう一人の息子である建御名方神は反対しました。そして、使者の建御雷神(たけみかずちのかみ)との力比べに負けて逃げ出し、諏訪の土地から一生出ないことを条件に命を助けられます。そして現在も、有名な「諏訪大社」の御祭神として祀られています。

出雲から逃げるにしても、どうして諏訪に向かったのか疑問に思っていたのですが、母である奴奈川姫の故郷・糸魚川まで北上し、それから諏訪に向かったという説があるのだとか。そう考えれば納得できます。

ちなみに、糸魚川周辺のヒスイは万葉歌にも大事なものの例えとして詠まれています。

沼名河(ぬなかわ)の底なる玉 求めて得し玉かも
拾(ひり)いて得し玉かも あたらしき君が
老ゆらく惜しも
作者未詳 万葉集 巻第13-3247
沼名河の深い川底にある玉。これが探し求めてやっと得た玉なのだ。拾い求めてやっと得た玉なのだ。この大切な玉のようにかけがえなく尊い君、その我が君が老いてゆかれるのは、何ともせつない。


私も地元民ですから、学校の校歌に「勾玉(まがたま)」なんていう言葉が普通に登場したり、ヒスイ工房跡が見つかった有名な寺地遺跡が近くにあったりもします。また、古代にはあれだけ重要視されたヒスイも、それ以降は産地すら不明になってしまい、20世紀に入ってからやっと糸魚川市周辺が産地だったことが再発見されたりしたのだとか。昔は全く気づかなかったことも、今調べてみるととても面白いんですよね。

地元では、奴奈川姫もヒスイもよく名前を聞く存在でしたが、全国的な知名度はほぼ無いでしょう。今年は古事記編纂から1300年の記念イヤーということもあって、その関連スポットとして注目して欲しいと思います。


駅前のヒスイロードには奴奈川姫像が

奴奈川姫の存在感は、市の中心となる糸魚川駅前にいきなり銅像が(しかも2ヶ所も!)建てられていることからも分かります。ちなみに、この通りの名前が「ヒスイロード」、行きあたった海岸の名前が「ヒスイ海岸」ですから、この辺りはまさにヒスイと奴奈川姫の街なのです。

古事記にも見目麗しき姿に描かれているお姫さまですから、その像も美しいお姿です。海岸側(元市役所があったところ)にあるものは、足元に幼い建御名方神がまとわりついた姿で造られています。この子が後に力自慢の武闘派の神様に成長するのかと思うと、ちょっと感慨深いものがあります(笑)


奴奈川姫@新潟県糸魚川市-01

北陸本線と大糸線が通る「糸魚川駅」前の様子。冬の日本海側、しかも夕方近い時間だったため、全体的に暗めに写っていますがご容赦ください。糸魚川の駅前にも、地元のヒロイン・奴奈川姫の像が立っています。ちなみに、(短いながらも)駅前通りの名前は「ヒスイロード」と言います!

奴奈川姫@新潟県糸魚川市-02
奴奈川姫の像。案内看板には、「奴奈川姫は越の国・奴奈川族の首長であった。すぐれた才知と美麗の持主で、その名は出雲の国まで伝わった。出雲の大国主命は、はるばる奴奈川姫と結婚するために越の国に来て、姫と歌を詠み交した。そして二人は翌日結婚したと「古事記」にしるされている」とありました

奴奈川姫@新潟県糸魚川市-03
糸魚川駅前の「ヒスイロード」の説明。古代から神秘な力を持つ霊石とされたヒスイの産地らしく、ヒスイから造られた勾玉(まがたま)モチーフのオブジェなどが置かれています

奴奈川姫@新潟県糸魚川市-04
ヒスイロードに設置された「蘇りの霊水(よみがえりのみず)」。きれいな勾玉がモチーフです。おそらく地元産のヒスイで造られていると思います

奴奈川姫@新潟県糸魚川市-05
こちらは「勾玉池(まがたまいけ)」。説明には、メロディーを奏でる石と水のオブジェとありましたが、お察しのとおりとても寒かったので、水は出しませんでした(笑)

奴奈川姫@新潟県糸魚川市-06
糸魚川駅から200mくらいで国道8号線が、その先には日本海が見えます。そんな場所に、もう一体の奴奈川姫像が立っています(撮り忘れたので、翌日わざわざもう一度撮影に行きました)

奴奈川姫@新潟県糸魚川市-07
奴奈川姫と、足元にいる子は「建御名方神(たけみなかたのかみ)」です。この子が将来、強引ともいえる天つ神の要望に立ち向かい、残念ながら敗北を喫してしまう勇者に育ち、諏訪大社に祀られます!なお、諏訪大社にも奴奈川姫を祀る子社があり、安産の神となっているそうです

奴奈川姫@新潟県糸魚川市-08
奴奈川姫とヒスイの説明。今でもこの一帯の海岸(その名もヒスイ海岸)ではヒスイの原石が拾えます。また、この土地では古くから奴奈川姫は信仰の対象となっており、平安時代にはその姿を摸した神像も刻まれ、今なお大切に安置されています


天津神社に並ぶ「奴奈川神社」にお参り

糸魚川市には、奴奈川姫を祀る「奴奈川神社」が2ヶ所あり、そのひとつは地元の古社「天津神社(あまつじんじゃ)」(Wikipedia)と並んで祀られています。

天津神社は、第12代景行天皇の御代に創設されており、後に奴奈川神社が同地へ移されたのだとか。両社共通の重厚な拝殿の背後に、やや小さめのそれぞれの本殿があります。特に奴奈川姫の何かがあるわけではありませんが、興味のある方はぜひお参りしてみてください。


奴奈川姫@新潟県糸魚川市-12

糸魚川市には、奴奈川姫を祀る「奴奈川神社」が2ヶ所あるそうです。そのひとつは、天津神社(あまつじんじゃ)と並んで祀られています。神社の名前は違えど、奴奈川姫が御祭神として祀られている神社は日本海沿岸に広く存在しているそうです

奴奈川姫@新潟県糸魚川市-09
天津神社と奴奈川神社を合わせて祀る拝殿。天津神社は、第12代景行天皇の御代に創設された古社で、勇壮な「けんか祭り」でも有名です

奴奈川姫@新潟県糸魚川市-10
この日は正月2日でしたので、たくさんの初詣客がお参りに来ていました。拝殿内では厳かにお祓いが行われていました

奴奈川姫@新潟県糸魚川市-11
拝殿の背後、向かって左手に建つのが「奴奈川神社」本殿です。以前は別の場所にありましたが、中世にはこの地で祀られるようになったようです。奴奈川姫命を祀り、後年には八千矛命(大国主命)を合祀して、夫婦仲良く祀られています



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■天津神社・奴奈川神社

HP: http://www.fsinet.or.jp/~amatsu/
住所: 新潟県糸魚川市一の宮 1-3-34
電話: 025-552-0036
駐車場: あり
アクセス: JR糸魚川駅より徒歩で約15分


「紙芝居 奴奈川姫物語」もありました

また、これはちょっと余談になりますが、昨年、地元で打ち棄てられてしまった「白馬大仏」さまにお会いするため、糸魚川温泉「ホテル国富 翠泉閣」さんへお邪魔しました。


その施設内の壁に、全12枚の「紙芝居 奴奈川姫物語」が飾ってありました。絵のタッチは里中満智子先生風で、大国主命が奴奈川姫の結婚までのストーリーが描かれています。地元では奴奈川姫はここまで愛されている…という証拠として、簡単にご紹介しておきます。


奴奈川姫@新潟県糸魚川市-13

露天風呂に入りながら、山奥に鎮座するまま打ち棄てられてしまった「白馬大仏」が見られるお宿『ホテル国富 翠泉閣』さん(山の中腹に小さく見える白い方が大仏さまです)。ここの渡り廊下に奴奈川姫モチーフの紙芝居が飾ってあったので、合わせて簡単にご紹介しておきます

奴奈川姫@新潟県糸魚川市-14
ホテルの渡り廊下の壁に飾ってあった「紙芝居 奴奈川姫物語」。里中満智子先生風のタッチの絵で、全部で12枚ありました。大国主命が奴奈川姫に求婚し、結ばれるまでが描かれています

奴奈川姫@新潟県糸魚川市-15

奴奈川姫@新潟県糸魚川市-16

奴奈川姫@新潟県糸魚川市-17



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■ホテル國富 翠泉閣

HP: http://www.kunitomi.co.jp/index.htm
住所: 新潟県糸魚川市大所885-1
電話: 025-557-2000
アクセス: JR大糸線「平岩駅」から約2km


■参考にさせていただきました!

奴奈川姫の伝説/糸魚川市
沼河比売 - Wikipedia
奴奈川姫産所(奴奈川姫誕生の地)
ヒスイ - Wikipedia


※現地に行ったのは「2012年1月2日」前後です






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