2011-12-25

過去と現在の地図を見比べる『奈良時代MAP―平城京編』

過去と現在の地図を見比べる『奈良時代MAP―平城京編』

以前から気になっていた『奈良時代MAP―平城京編』を読んでみました。平城京の区画地図に、半透明のトレーシングペーパーで現代の地図を重ねて見られるというもので、見方によってはかなり遊べる楽しい一冊でした。


朱雀大路や羅生門、太安万侶邸は今どこに?

奈良時代MAP―平城京編 (Time Trip Map―現代地図と歴史地図を重ねた新発想の地図)奈良時代MAP―平城京編 (Time Trip Map―現代地図と歴史地図を重ねた新発想の地図)
新創社

光村推古書院 2007-07
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サブタイトルに「Time Trip Map―現代地図と歴史地図を重ねた新発想の地図」とあるように、カラーで書いた平城京の区画地図に、半透明のトレーシングペーパーの現代の地図を重ねて見られるという、ちょっと面白い作りの一冊です。現在の奈良と奈良時代がシンクロする感覚はなかなか面白いです。ちょっとしたブラタモリ気分ですね(笑)

地図上には、悲劇の宰相・長屋王、藤原麻呂、藤原仲麻呂などの有名人の名前が見つかり、彼らが平城宮に近い一等地に暮らしていたことがよく分かります。また、現在のJR奈良駅近くでは、古事記を編纂したことで知られる太安万侶らしき名前も見つかったりします。

写真ではその楽しさは伝わりづらいと思いますが、気になった点を挙げておきます。


書評『奈良時代MAP―平城京編』-02

向かって右ページは平城京復元模型写真。左ページが本書で取り扱うエリアの説明です。平城京と外京、東大寺と春日大社のエリアまで、計13のマップを使って、奈良時代と現代を比較できます

書評『奈良時代MAP―平城京編』-03
平城宮のすぐ東側の、奈良時代の区画。黄色の大きな区画が「藤原不比等邸(後の法華寺)」で、その一角にあるのが「海龍王寺」。その周りには「阿弥陀浄土院」など、すでに存在しない寺院もあります(写真右上の「不退寺」は今もあります)。緑と紫の区画は、居住者の名前が記してあり、位の高い順にピンク→紫→緑となっています

書評『奈良時代MAP―平城京編』-04
法華寺周辺に、トレーシングペーパーに描かれた現代の地図を重ねたところ。法華寺周辺にはいくつかの寺院が登場していたり、一条高校が現れたりしています。過去の大路と現在の道は重ならないものも多いのですが、東二坊大路が突き当たって曲がるところは今でもほぼそのまま遺っていますね

書評『奈良時代MAP―平城京編』-05
奈良時代の平城宮・朱雀門前。黄色の大きな区画は「長屋王邸」、その下のピンク色は「市原王」(志貴皇子のひ孫と考えられる方で、万葉集に歌を残しています)。基本的には、平城宮に近いほど一等地になるはずですが、朱雀門すぐの場所がそれほど高位ではない「山辺小孝子」です。「阿刀宿祢田王」を調べてみたら、それなりに有力な一族だったようです

書評『奈良時代MAP―平城京編』-06
現代の地図を重ねてみると、長屋王邸は「イトーヨーカ堂」に、朱雀門前の邸宅は「ならシルクロード博記念館」になっています。驚くのは、奈良時代には堂々と広がっていた朱雀大路が、現代はほとんど何も遺されていないこと。都が遷ればこんな広い通りは不要だったんでしょうね

書評『奈良時代MAP―平城京編』-07
左の大きな区画は「田村弟(藤原仲麻呂邸)」。右側のピンクの区画は「太朝臣安萬侶(従四位下)」とあり、これは古事記を編纂した太安万侶(Wikipedia)のこと。昭和になって発見された墓誌から「左京四條四坊」に住んでいたことが判明しています

書評『奈良時代MAP―平城京編』-08
太安万侶が住んでいた左京四條四坊は、現在のJR奈良駅近くで、奈良女子中・高校がある場所と重なります。道路は今と大きく変わっていますが、当時の名前を残す「三条通り」だけはほぼそのままの位置のようです。歴史ある通りですね

書評『奈良時代MAP―平城京編』-09
平城京の終点となる「羅生門」。朱雀大路と九条大路が交わる位置にあります。周りは「観世音寺」があったり、需要な都市機能である市場「西市」が見えます。平城宮から離れるほど身分が低い者の住まいとなっていきますので、この辺りは下級役人らしき色合いが目立ちます

書評『奈良時代MAP―平城京編』-10
羅生門のあった場所から少しだけ東側に「平城京羅生門跡」があります。場所は「西九条南」交差点の辺り(ニトリの入った商業ビルの向かい)。あそこが平城京の終点だと意識したことも無かったですし、九条町の地名は九条大路からとられていることも初めて気づきました。奈良の歴史の長さを実感しますね


地図を重ねると色んなことが見えてきます

この本は2007年に刊行されていて、ずっと楽しそうだと思っていましたが、お値段が「1,890円」とやや高価なこともあって、これまでなかなか購入する勇気が出なかったのです。

理由としては、一部の有名貴族を除けば、「平城京のここに▲▲さんが住んでいた」と分かっても、奈良時代の中~下級役人の名前などほとんど知らないのですから、そんなに喜べるものではありません。「奈良時代にはここに今はなき●●寺があった」と分かっても、西隆寺などの有名な寺跡か全く名前を知らないかの両極端です。それほど長く楽しめる本ではないかも…と思っていたんですが、図書館で借りてじっくりと目を通してみたら、見方次第ではかなり面白いんですよ。

人を見ていくと、有名な貴族ほど平城宮に近い位置に広い邸宅を構えているのが分かります。ちなみに、平城京に勤めていた役人たちは、朝3時に朱雀門前で開門を待たなければならないのだとか(仕事は正午まで)。九条大路のような遠い場所に住んでいたら、通勤に一時間もかかりますから、これは大変なことだったでしょう。古い区画図からは色んなことが想像できます。

また、朱雀大路など当時の道はほとんど残っていないだけに、三条通りなどの一致ぶりはちょっと感動します。他の大通りでも一部は完全に今の道と重なったりするため、そんな痕跡を探すのも面白かったです。私は今の奈良の地理にはそれほど詳しくないので、かえって新鮮に楽しめました。

寺社に関しては、東大寺や春日大社など、それほど広さが変わっていないように見えるところがある一方で、西大寺や元興寺などのように激減しているところもあります。1300年もの時を隔てて見比べてみるのは面白いですね。

今でも奈良の書店ではよく見かけますので、ぜひ手にとってみてください!


書評『奈良時代MAP―平城京編』-11

本の後半では、平城京や飛鳥・藤原京なども含めて、この時代の歴史的な動きが解説してあります。この時代の歴史に疎い方でも比較的分かりやすいでしょう

書評『奈良時代MAP―平城京編』-12
「平城京の暮らしと町を読み解く」のページでは、その当時の都に暮らした人々の生活ぶりが分かります。当時の平城宮の人口は約10万人・役人は朝3時に朱雀門前で開門をまたなければならない・平城宮に近いほど一等地…といったことを知った上でイメージを膨らませると、より楽しめると思います


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※「京都時代MAP 幕末・維新編」や「東京時代MAP―大江戸編」も発売されていますので、地図好きな方はどうぞ!






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