大正14年創業!奈良県南部の名銭湯『旭湯』@吉野郡大淀町
吉野郡で唯一の銭湯となった、大淀町の『旭湯』さん。創業は大正14年という老舗です。創業当時からのベビーベッドや脱衣箱、昭和に入ってから作られた大きなタイル絵。「水道水を重油で炊く」銭湯が一般的ないま、「吉野の地下水を、吉野のおが屑で炊く」というのも贅沢で、遠くからでも訪れる価値のある名銭湯です!
タイル絵に赤ちゃん台。美しく懐かしい!
吉野の山と川に恵まれ、奥大和への玄関口ともなっている大淀町。現在の人口は1.8万人弱。近鉄吉野線「下市口駅」から伸びる商店街は寂しくなっていますが、昭和の雰囲気が感じられます。(私たちのような)レトロ趣味な方にぜひ散策してみてください
そんな商店街の路地へ入ってすぐ(下市口駅から徒歩約3分)にあるのが、吉野郡では唯一の銭湯となってしまった『旭湯』さん(Facebook)です。創業はなんと大正14年(1925年)!寺院の建物にも似た「千鳥破風」の屋根からも歴史が感じられます
旭湯さんの玄関部分。昭和30年代ごろに建物を大きく直しているそうで、下駄箱は木製の下足鍵付きタイプ。天井が白黒のチェッカー柄になっているのがハイカラですね
旭湯さんの「女湯」の脱衣場。創業当時から使用しているという木製のベビーベッドが圧巻!(詳しくは後ほど)
女湯の様子。草原の動物たちを描いたモザイクタイル絵が目を引きます。浴槽は2つで、周りに腰掛ける段がある大阪風のもの。さまざまなタイルが使われていて美しいです!
こちらは旭湯さんの「男湯」の脱衣場。目を引くのが脱衣ロッカー。ケヤキの1枚板で作られており、大正時代の創業当時からのものだとか
男湯の様子(人の姿が見えますが気になさらず)。こちらのタイル絵は、大きな池や緑、お花などが描かれた、おそらくヨーロッパの風景をモチーフにしたもの。素敵!
吉野の地下水を、吉野のおが屑で沸かします
この日は、旭湯の森脇さんにお話を伺いました。
森脇さんは、大正14年創業の旭湯の4代目にあたり、国道309号線沿いでハンバーガーなどを提供している「ライダーズカフェ ヴィンテージ」(Facebook)のオーナーさんでもあります。
このご時世ですから、銭湯の営業を続けていくのは簡単なことではありません。地下水の枯渇のため、2018年末から数ヶ月間の休業などもありましたが、井戸を掘り直すことで見事に復活!2019年4月から営業を再開なさっています。その様子などは、旭湯さんのFacebookページで見られます
特別に旭湯さんのバックヤードも拝見させていただきました。お湯を沸かす「釜」は、銭湯の心臓部ともいえるもの。現在は重油を使うのが当たり前になってきていますが、旭湯さんはそうではありません
釜の脇には「挽っ粉(ひっこ)」(=おがくず)を貯めておくスペースがあり、これを燃料としてお湯を沸かしているのです!製材所さんで出たものを回収しているそうで、林業が盛んな吉野地区らしいですね
挽き粉で炊く釜は特殊で、現在のものはもう数十年も大事に使っていらっしゃるとか。
多くの銭湯が「水道水を重油で沸かす」この時代に、旭湯さんでは「地下10mから汲み上げた吉野の地下水を、吉野杉やヒノキのおがくずで沸かしている」というのですから、ある意味ではものすごい贅沢です!
銭湯マニアの間では、こうして沸かしたお湯は「肌当たりがやわらかになる」という声もあり、お湯の温度が同じでものぼせづらいのだとか。お風呂に入っていてもいい木の香りが感じられます
【女湯】創業当時からのベビーベッドなど
あらためて、旭湯さんを愛でていきましょう。女湯の脱衣場を奥から見たところ。中央と奥にある赤ちゃん台(ベビーベッド)、渋い木製の脱衣ロッカー、天井のシーリングファン(女湯のものはまだ動くそうです)など、ポイントがいっぱい!
現在は物置台のように使われているベビーベッド。大正時代の創業当時からある、とても古いもので、常連のおばあちゃんたちが赤ちゃんだったころから使われていたことになります。歴史が詰まってますね
マッサージチェア、ドライヤー付きの椅子、体重計という、素晴らしい並びです。ドライヤーが付いた椅子は、すぐお隣の渋い美容室「旭美粧院」さんから譲られたものだとか
男湯との境には、青系のタイルが美しい洗い場と、その端には冷蔵庫も(何が入っているんだろう?)
女湯をちょっと角度を変えて。小さなお子さんも多いであろう女湯だけに、絵柄ものどかです。象・虎・鹿・鳥・リスなどが描かれていますが……
鹿を見つめる虎のじとーっとした目つきが面白い(笑)
奈良県民的には、鹿が食べられちゃわないかと心配になりますが、このタイル絵が完成したのが昭和30年代の大規模な改修工事のころだそうですから、もう半世紀以上もこうして仲良く並んでいます
浴槽を奥から見たところ。写真手前はかつてはジェットバス、現在は浅い寝湯のようになっています。写真奥の主浴槽は3段になっていて、水深が約90cmもあります。かなり深めなので、しっかりと水圧を感じながら入浴できます
天井は綺麗なアーチ状。天窓から光が差し込んでいます
カラン周り。冷水とお湯が別口となった昔ながらのものと、鏡の上にはシャワーもついています。
旭湯さんでぜひじっくり見てほしいのが、鏡に掲載された「鏡広告」です。破損もなく、ほぼ完全な状態で遺されています。地元のお店の名前が並び、フォントやデザインなども味があっていいですね。これは鏡の裏側から手書きしてありますが、現在ではもうやってくれる職人さんが見当たらないのだとか(今なら表からステッカーを貼るのが一般的)
【男湯】壁一面の脱衣箱!古い体重計など
こちらは旭湯さんの男湯の入口。男湯と女湯の境に番台があるタイプです。男湯にもコイン式のマッサージチェアが完備されています
壁一面の脱衣箱(ロッカー)が迫力!大正時代の創業当時からのもので、ケヤキの1枚板で作られています。ちょっとしたサイズ違いで並んでいるのもいいですね
ロッカーには単に漢数字を墨で書いただけではなく、立体的に盛り上がっています。丁寧な仕事ですね
男湯の体重計は、女湯のものよりもさらに古い年代物。針が少し狂っていますが、まだ現役です。鏡広告の「OS国技館」とはなんだろうと思ったら、かつて営業していたパチンコ屋さんでした
味のある引き戸から浴場へ。やはり大きなタイル絵がある銭湯は気分が盛り上がりますね!
僭越ながら、この日の一番風呂をいただきました(取材です)。お湯がやわらかで気持ちいい!贅沢な時間でした。
撮影は営業時間前に行いましたが、営業開始の16時の前から常連さん数名が訪れてきて、暖簾がかかると同時にお風呂を楽しんでいました。湯船のまわりの腰掛けに座っておしゃべりしたり、ちょっとした社交場ですね
男湯でも美しいタイルに鏡広告などが見られます。いつまでも残して欲しいですね!
ぜひ吉野でひとっ風呂浴びてください
番台には女将さんが座ります。全盛期と比べてお客さんは減っていますが、町からの補助も出ているため、地元で一人暮らしをしているお年寄りたちもリハビリのように訪れているといいます。
地下水が足りなくなった際には「もう畳んでしまおうか」という話も出たそうですが、「おかみさんが元気・窯が壊れない・燃料が確保できる」この3つの条件が揃っているうちは営業を続けてくれるとか。本当に素敵な銭湯ですので、ひとっ風呂浴びに来てください!
■旭湯
Facebook: @268asahiyu
住所: 奈良県吉野郡大淀町下渕160
電話: 0747-52-2863
定休日: 月曜日・金曜日
営業時間: 16:00~19:00
駐車場: あり(裏手に2台分。下渕商店会の駐車場も利用可)
アクセス: 近鉄吉野線「下市口駅」から徒歩約3分
※取材日は「2019年6月18日」でした。
※掲載した脱衣場・浴室などの写真は、営業時間前に店主さんのご許可をいただいて撮影しています。
■参考にさせていただきました