2017-02-16

【雑文】奈良暮らしのすごさを端的に伝えるには

【雑文】奈良暮らしのすごさを端的に伝えるには

奈良に暮らし始めてから、親戚や地元の知り合いなどから羨ましがられることも少なくない。私をふくめて、基本的にみな田舎に生まれ育っているため、単純に「すごいね」と言ってもらえるし、私自身も「すごいでしょ」と応えている。“奈良生まれ奈良育ち”の方たちからはなかなか理解されないかもしれないが、「奈良に暮らす」ということにたくさんの者が憧れているのだ。


もちろん、彼らのイメージする奈良と、私が暮らす奈良では大きく違うだろう。古い町並みに建つ古民家に住まうわけではないし、身近に鹿せんべいをねだる鹿も歩いていない(見かけたとしたら害獣扱いされるよね)。田んぼと畑の合間に、地元のスーパーとどこにでもあるチェーン店が並ぶ、ぱっと見はありふれた田舎町だ。

しかし、もちろん単なる田舎のはずがない。四季折々に奈良ならではの素晴らしさがある。ここで暮らしているだけで、長い歴史の中に身を置いていることを実感できる。心の底から湧き水が染み出すように、喜びや敬虔な気持ちがこんこんと沸き上がってくる。



……という心情を、関西圏の人々がなかなか理解してくれないのは仕方ないだろう。それとは別の意味で、これを地元の人間(例えば叔父とか)に説明するのも簡単なことではない。

なにせ北陸生まれで関東文化圏に属していた私やその周囲の人間にとって、奈良の明確なイメージができていない。それは京都でも同じことだ。有名な観光スポットの名前はいくつか挙げられるものの、それが奈良なのか京都なのかの区別も怪しい。古都という言葉に、ふんわりとした雅なニュアンスを感じ取っているだけだった。「修学旅行で一度だけ」という人間であればくらいのレベルだろう。


そんな彼らの夢を壊すことなく、同時に知らない固有名詞をなるべく用いずに、奈良暮らしの良さを端的に伝える。私はずっとそんな言い回しを探してきた。

奈良のシンボルである、奈良公園・東大寺・興福寺などを絡めて説明できれば、もっとも分かりやすいのだが、残念ながら私が暮らすのは、奈良盆地の西の端っこ、二上山の麓(@香芝市)だ。車で1時間近くもかかってしまう。

毎日、二上山を感じながら暮らしているだけで、私にとってはとんでもないステータスなのだが、おそらくこれは説明なしでは伝わらない。二上山にまつわる伝承など聞いたこともないであろうし、その麓で中将姫が美しい曼荼羅を織り上げたことも、山上に葬られている大津皇子のことも知らないだろう。私だってこちらへ移り住むまではまったく関心もなかったのだから、偉そうなことをいう資格など無い。



そんなことを考えた末に、最近ではこういう言い方をするようにしている。

「自宅から国宝まで歩いていける」

実際には徒歩20分以上かかるので、ちょっと苦しい言い分ではあるが、嘘ではない。奈良ネイティブの人たちにはピンとこないかもしれないが、これってすごいことなのだ。



私の自宅からもっとも近い国宝は、葛城市の古刹・當麻寺の寺宝たちだ。創建当初から現存する東塔・西塔の2つの三重塔、天平時代の傑作とされる弥勒菩薩坐像と四天王像、中将姫がみずから紡いだ蓮糸を使って一夜にして織り上げたと伝わる「當麻曼荼羅」など、これらすべてが国宝に指定されている。

国の重要文化財クラスであれば、ご近所のそれほど規模の大きくない社寺にいくつも所蔵されており、地元の小さな博物館でも間近で拝むことができる。こんなすごい土地なんて、奈良と京都くらいなものだろう。

ちなみに、こういう形で引き合いに出して申し訳ないとは思うが、私の生まれ故郷である新潟県には、国宝に指定されたものは1件しかない。それは「笹山遺跡出土深鉢形土器」で、有名な火焔型土器をふくむ、928点の出土品が一括して指定されたものだ。広い広い新潟県にそれ1件のみなのだ。

実家からはかなり距離があるため、じつは私はまだ実物すら見たことがない。今となっては見たくて見たくて……というレベルのお宝だが、その当時はまったく興味もなかった。おそらく多くの新潟県人にとって、国宝とはそれほど身近にあるものだという認識はないだろう。国宝とはそれほどレアなものなのだ(アホみたいな言い方ですが)。

文化財指定等の件数|文化庁
国宝・重要文化財総数の都道府県ランキング - 都道府県格付研究所

しかし、奈良で生活していると、国宝クラスの文化財もそれほど縁遠いものではない。重文クラスであれば驚きもしないだろう。

ローカルニュースで四季折々の風景として文化財保護の訓練として放水の映像が流れたり、大仏様に縄をかけてお身拭いの様子が見られたりする。珍しくもないだろう。その同じ時間帯、新潟のニュース番組では「トキに繁殖行動が見られた」「湖に白鳥が飛来した」みたいな映像が流れるのだ。

国宝に対する免疫はないが、国の天然記念物・トキに関しての耐性はある。地域差とはそういうものだ。おそらく全国的に見ても、「国宝」は強力なパワーワードだろう。



ちなみに、もうひとつ 「世界遺産までジョギングする」 というのも使ったことがある。日本で最初に世界遺産に登録された斑鳩町・法隆寺まで、自宅から10kmちょっと。片道1時間ちょっとの距離のため、何度かジョギングで往復している。

当然、法隆寺の境内を走ったりせず、門前で脱帽して、汗臭いことをお詫びしながら参拝だけさせてもらったりする。これは本人もとても清々しい気分になるし、その様子をイメージしてもらうとかなり素敵っぽくなる。きっと「ニューヨークへ行ってセントラルパークでジョギングする」みたいなものだ(行ったことないですけどね)。

世界遺産や国宝って、それくらい価値あるものなのだ。これからもどんどん誇っていくことにしたいと思う。










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