2012-09-09

万葉の気配を感じる『桜木神社』と『象の小川』@吉野町

万葉の気配を感じる『桜木神社』と『象の小川』@吉野町

吉野町宮滝からほど近い、大海人皇子(後の天武天皇)ゆかりのお社『桜木神社』と、その脇を流れる万葉歌に詠まれた『象(きさ)の小川』をお詣りしてきました。山間の静かな場所で、飛鳥時代にタイムスリップしたような、万葉の雰囲気が濃厚に感じられました。


壬申の乱に勝利した天武天皇を祀る神社

吉野町の『桜木神社』は、宮滝近くの「喜佐谷(きさたに)」にある古社です。喜佐谷を流れ、吉野川へそそぐ喜佐谷川は、万葉の時代には「象(きさ)の小川」と呼ばれ、数多くの歌人に詠まれてきました。

また、672年の壬申の乱の際には、大海人皇子(後の天武天皇)がこのあたりの桜の木の影に身を隠して難を逃れ、後に戦いに勝利したという言い伝えも遺されています。



桜木神社

万葉の香り高い象(きさ)の小川のほとりに鎮まるこの神社は、大己貴命・少彦名命、それに天武天皇をお祀りしています。大己貴命・少彦名命は、古くから医薬の神としての信仰があつく、特に初代紀伊藩主大納言徳川頼信公は、たびたび病気平癒を祈願しています。

天武天皇がまだ大海人皇子といわれていたころ、天智天皇の近江の都を去って吉野に身を隠しましたが、あるとき天皇の子、大友皇子の兵に攻められ、かたわらの大きな桜の木に身をひそめて、危うく難を逃れたいう伝説があります。のち大海人皇子は勝利を得て(壬申の乱 六七二)、明日香の浄見原に都を定めて、天武天皇となられたのです。このあと吉野の宮(宮滝)に行幸されると、篤くこの宮を敬われ、天皇なきあとは、ゆかり深い桜木神社へお祀りしたと伝えられています。

皆人の 恋ふるみ吉野 今日見れば うべも恋ひけり 山川清み

と万葉集にもあるように、そのかみの大宮人は、吉野川を舟競い、あるときは草摘みに、又あるときは神に祈るため、この辺りへもたびたび歩を運んだことでしょう。そう思うだけでもこの辺りのたたずまいは、万葉の抒情がそくそくとせまって来るではありませんか。

案内看板より


境内もそれほど広くありませんので、お参りするのもそれほど時間はかかりません。古代の人々への思いを馳せながら、のんびりとした空気を感じてみてください。


桜木神社と象の小川@吉野町-01

吉野町喜佐谷に鎮座する『桜木神社』。吉野川から500mほど山側へ入ったところにあります。道も細く、車の通りも少ないので、とても静かで落ち着いた場所でした

桜木神社と象の小川@吉野町-02
桜木神社の由緒を示した看板。医薬の神である大己貴命と少彦名命、さらに天武天皇を御祭神としてお祀りしています

桜木神社と象の小川@吉野町-16
道路沿いの少し上流側には、奈良大学教授の上野誠先生による「虎に翼を着けて放てり」という石碑がありました。これは『日本書紀』に登場する言葉で、大海人皇子が天皇への即位を断り出家して吉野入りした際に言われたものです。和歌でも俳句でもない、ちょっと意外な石碑ですね!

桜木神社と象の小川@吉野町-04
桜木神社の手水舎と鳥居。本殿の背後に山が迫っているため、境内はそれほど広くありません

桜木神社と象の小川@吉野町-07
桜木神社の狛犬・阿形。耳が大きめで立派です!

桜木神社と象の小川@吉野町-09
桜木神社の拝殿と本殿

桜木神社と象の小川@吉野町-08
桜木神社の狛犬・吽形

桜木神社と象の小川@吉野町-05
拝殿脇に立つ「御神木大杉」。樹齢約700~800年、高さ35~40mと、堂々とした巨木でした

桜木神社と象の小川@吉野町-06
桜木神社の御神木大杉を見上げたところ。高さ40m近いというのですから、見事なものですね


万葉歌「み吉野の 象山の際の 木末には~」

桜木神社と象の小川@吉野町-10
桜木神社の境内に建つ万葉歌碑。やや見づらいですが、山部赤人の「み吉野の 象山(きさやま)の際(ま)の 木末(こぬれ)には ここだも騒(さわ)く 鳥の声かも」が刻まれています


聖武天皇の吉野行幸にお伴した山部赤人の歌で、長歌につけられた2つの反歌のうちの一つです。

み吉野の 象山(きさやま)の際(ま)の 木末(こぬれ)には
ここだも騒(さわ)く 鳥の声かも
山部赤人 万葉集 巻6-924
み吉野の象山の谷あいの梢では、あぁ、こんなにもたくさんの鳥が鳴き騒いでいる。

まさに象山(きさやま)の麓のこの辺りを歌ったもので、周囲の景色はいくらか変わっていても、鳥の声だけが聞こえるような自然豊かな場所であることは変わりありません。吉野という土地は、時として飛鳥時代そのままと思わせるような雰囲気が感じられるのが面白いところですね。


象の小川は大伴旅人の歌を思い出しながら

桜木神社の脇を流れる「象(きさ)の小川」。今では何でもない小川に見えますが、万葉人から愛され、憧れの場所と言うべき場所でした。吉野の地を愛した歌人・大伴旅人が象の小川を詠んだ歌2首をご紹介しておきます。

昔見し 象の小川を 今見れば
いよよさやけく なりにけるかも
大伴旅人 万葉集 巻3-316
昔見た象の小川を今再び見ると、流れはいよいよますますさわやかになっている。

持統天皇の吉野行幸へ付き従っていた頃を思い出して詠んだもの。持統天皇が亡くなって20年も経ってから詠まれたのだそうです。

わが命も 常にあらぬか 昔見し
象の小川を 行きて見むため
大伴旅人 万葉集 巻3-332
私の命、この生命もずっと変わらずにあってくれないものか。その昔見た象の小川、あの清らかな流れを、もう一度行って見るために。

こちらは、60歳を過ぎて九州の太宰府へ赴任してから、故郷を懐かしんで詠んだもの。大伴旅人は、お酒を讃える陽気な歌を遺したりしていますが、その一方でこんな苦労もしていました。生まれ育った奈良への望郷の念が募っているのが伝わってくる、とても切ない歌ですね。

これらの万葉歌を思い出しながら象の小川の流れを見つめてみると、時間を飛び越えたような不思議な感覚になります。吉野や飛鳥を巡るときには、万葉歌を諳んじられるようにしておくとより楽しめます!


桜木神社と象の小川@吉野町-11

桜木神社の脇を流れる小川が、万葉歌に詠まれた「象(きさ)の小川」です。今では特に目立つこともない小さな川ですが、吉野のシンボル的な存在として万葉人に愛された場所です

桜木神社と象の小川@吉野町-12
桜木神社の境内から、象の小川の河原に下りることができます。上流にはほとんど民家もないような山中ですから、さすがに美しい清流でした

桜木神社と象の小川@吉野町-13

桜木神社と象の小川@吉野町-14



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■桜木神社

住所: 奈良県吉野郡吉野町喜佐谷
電話: 0746-39-9091
主祭神: 大穴牟知命、少彦名命、天武天皇
創建: 不明
拝観料: 境内無料
駐車場: 無料駐車場あり
アクセス: 近鉄「大和上市駅」から、奈良交通バス「湯盛温泉杉の湯」行きへ乗車、宮滝バス停下車、徒歩15分ほど


■参考にさせていただきました!

桜木神社
桜木神社(吉野町) - ならリビング.com


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