2015-04-22

読みやすくディープ!お勧めの万葉集本『よみたい万葉集』

読みやすくディープ!お勧めの万葉集本『よみたい万葉集』

2015年2月発売の『よみたい万葉集』が、とても面白かったのでご紹介します。いかにも女性初心者向けのように見えますが、「読みやすさ」と「深さ」のバランスが絶妙で、読み応えもあります。万葉集に多い「恋」の歌に偏らず、「相聞・装・鳥・笑・無常・夢・恋・酒・旅・挽歌・別格」などのテーマで、幅広く分かりやすく解説しています。興味のある方はぜひ!


初心者から中級者まで楽しめる万葉集本


2015年2月、西日本出版社さんから発売された『よみたい万葉集』(Amazon楽天)を拝読しました。

万葉集の世界を解説した本は、これまでにも何冊も読んできましたが、その中でもこの本は「読みやすさ」と「深さ」のバランスが絶妙で、個人的にとても楽しく読めました!



全140ページ、オールカラー!「鳥」「笑」「夢」など、11テーマの歌ごとにイメージされた挿絵が添えられ、鳥子と鹿先生が歌についてあれこれ語り合います「装」「動物」「食」などなど、万葉の頃の生活やファッション、あの歌人の意外な一面も垣間見れる、小ネタたっぷりの『万葉新聞』。「色」「おまじない」「長歌」など、もっと知りたい、楽しみたい人のためのコーナーや「万葉の四季」「万葉地図」「年表」「巻ごとの早見表」など巻末資料も充実!万葉集初心者から、もう少し踏み込んでみたいあなたに向けた、一冊です。


万葉集の関連本というと、心に残る歌を中心に紹介していくもの、土地や時代背景などの知識中心で紹介していくものなど、色んなタイプがありますが、本書はその中間くらい。歌とその背景、豆知識などがバランスよく散りばめられています。

やわらかなイラストを多用していて、いかにも女性初心者向けのように見えますが、内容はしっかりとしていて読み応えもあります。

万葉集の大多数は「恋」を歌ったものですが、本書ではそれに偏ることなく、バラエティに富んだ切り口になっています。「相聞・装・鳥・笑・無常・夢・恋・酒・旅・挽歌・別格」この11のテーマを選び、幅広く万葉の世界を分かりやすく解説していきます。

「恋」と同じページ数を割いて「鳥」(歌に詠まれた鳥の種類などを解説しています)のテーマが語られているのも驚きですし、こちらが先に掲載されているのもびっくりしました。なかなか思い切った構成ですね(笑)

また、当時の風俗などを新聞形式で紹介する『万葉新聞』などのページもユニークですね。初心者から中級者まで、楽しく読めると思います!


『よみたい万葉集』の目次

はじまりの物語
万葉集基礎のキソ

●相聞
あしひきの 山のしづくに 妹待つと
我を待つと 君が濡れけむ
我が里に 大雪降れり
我が岡の おかみに言ひて 降らしめし

●装
我が背子が かざしの萩に 置く露を
しらぬひ 筑紫の綿は 身に着けて
振分の 髪を短み

●鳥
春霞 流るるなへに
妹に恋ひ いねぬ朝明に
常陸さし 行かむ雁もが
天雲に 翼打ち付けて 飛ぶ鶴の
我が衣 君に着せよと
我が門に 千鳥しば鳴く

●笑
石麻呂に 我物申す
痩す痩すも 生けらばあらむを
うまし物 いづくも飽かじを
我が妹子が 額に生ふる 双六の
我が背子が たふ鼻にする 円石の
白玉は 人に知らえず 知らずともよし

●無常
世間を 名に喩へむ
巻向の 山辺とよみて 行く水の
水泡なす 仮れる身そとは 知れれども
この世にし 楽しくあらば
生けるもの 遂にも死ぬる ものにあれば
うらうらに 照れる春日に ひばり上がり

●夢
み空ゆく 月の光に
夢の逢ひは 苦しかりけり
忘れ草 垣もしみみに 植ゑたれど
相思はず 君はあるらし

●恋
夏の野の 茂みに咲ける 姫百合の
心には 千重に百重に 思へれど
冬ごもり 春の大野を 焼く人は
武庫の浦の 入江の渚鳥 羽ぐくもる
大船に 妹乗るものに あらませば

●酒
あな醜 賢しらをすと
憶良らは 今は罷らむ 子泣くらむ
君がため 醸みし待ち酒
賢しみと 物言ふよりは

●旅
音に聞き 目にはいまだ見ぬ
真木の葉の しなふ勢能山
海人娘女 棚なし小舟 漕ぎ出らし
人もなき 空しき家は

●挽歌
天の原 振り放け見れば
青旗の 木幡の上を 通ふとは
人はよし 思ひ止むとも
うつせみし 神に堪へねば
山吹の 立ちよそひたる 山清水

●別格
春の野に すみれ摘みにと 来し我そ
我がやどの いささ群竹
天の海に 雲の波立ち

●万葉新聞
歌垣号/装号/鳥号/動物号/七夕号/夢号/恋号/食号/防人号

●もっと楽しむ!万葉集
音/色/万葉鳥歌図鑑/原文おもしろ歌/伝説歌/おまじない/歌人別ソング集/長歌の楽しみ方/枕詞/裏ベストソング

おわりの物語
監修者解説
あとがき

●巻末資料
万葉早見表/万葉の四季と行事/年表と宮の変遷/万葉地図/+α基礎知識と文法・注参考文献・表記について


イラスト多めで読みやすく、内容はディープ!

お勧めの万葉集本『よみたい万葉集』-01
『読みたい万葉集』の表紙。やわらかな印象の装丁で、初心者女子向けの本かと思いきや、かなり読み応えのある内容です。大阪府立大学の村田右富実教授が監修なさっています

お勧めの万葉集本『よみたい万葉集』-02
まずは「万葉集 基礎のキソ」から。万葉集の世界に初めて触れる初心者の方にも親切ですね

お勧めの万葉集本『よみたい万葉集』-03
各テーマごとに代表的な歌が紹介され、万葉集の研究者の「鹿先生」が、初心者の小雀「鳥子ちゃん」に説明していくという形で解説していきます。鹿先生がクールで辛辣。豆知識も豊富に盛り込まれ、かなりディープです

お勧めの万葉集本『よみたい万葉集』-04
途中にはさまれる「万葉新聞」のページ。これは古代の合コンともいえる「歌垣」についての号です。歌や豆知識、ちょっとクスッと笑えるネタなども織り込んであって、楽しく読めました。この他に「装号・鳥号・動物号・七夕号・夢号・恋号・食号・防人号」とあります!

お勧めの万葉集本『よみたい万葉集』-05
初心者には分かりづらい「枕詞」を解説したページ。「もっと楽しむ!万葉集」という企画になっていて、さらに音・伝説歌・おまじないなども

お勧めの万葉集本『よみたい万葉集』-06
「色」にまつわる歌を集めたページ。kの他にも「原文おもしろ歌」や「長歌の楽しみ方」、そして著者さんたちが好きな歌を選んだ「裏ベストソング」などのページも楽しいです!


■よみたい万葉集

著者:まつしたゆうり・松岡文・森花絵
出版:西日本出版社
定価:1,400円(税抜)
発行:2015年2月23日
判型:A5判並製・138ページ
ISBN:9784901908948

詳細: http://www.jimotonohon.com/annai/948_manyou.html


その他、個人的に好きな万葉集本など

万葉集に関する本は、これまで何冊も読んできました(一覧ページ「【奈良住】読書リスト: 万葉集」)。

その中で、特に気に入っているものを2冊ほど紹介しておきます。

覚えておきたい順 万葉集の名歌 (中経の文庫)』(紹介記事)は、タイトルのとおり「覚えておきたい順」で有名な歌が100首掲載されたもの。

初心者にも分かりやすい明快さですし、文庫本なので気軽に手に取れるのもいいですね。私もときどき適当なページを読み返して楽しんでいます。以前も書きましたが、「この歌も入ってもいいんじゃないか?」などと考えてみるのも面白いですね。

万葉を行く―心の原風景』は、2002年に奈良新聞社さんから発売されたもので、万葉歌をゆかりの土地ごとに分けて紹介しています。

美しい万葉の歌が大和のどこの土地で詠まれたのか、これが結びつくと、歌の輪郭がクリアになって、より心に残るんですよね。新聞連載をまとめたものなので、ややお固い文章ですが、個人的にとても役立っていますし、何度も読み返しています。

「一冊だけ本を持ってひとりで無人島に流されるとしたら、どの本を選ぶか?」という妄想をした場合、私はこの本を持って行くと思います。寂しい無人島で、大好きな奈良の土地を思い出しながら、歌を暗記するまで詠み込みますね(笑)

そんな本ですが、今調べてみたら、Amazonの中古本が「1円」(送料別)で購入できるくらい値下がりしてますね。かなり渋い内容ですが、興味がある方はぜひ!


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