
『万葉集』の世界を理解する初心者向け入門書3冊
奈良時代を中心に編まれた、日本最古の和歌集『万葉集』。難しいもの・取っ付きにくいものと考えられがちですが、ちゃんとした入門書を読めば、ちゃんとその世界が理解できます。初心者向けの万葉集本は何冊も読んできましたが、その中から何冊かご紹介しておきます。
その1.『図説 地図とあらすじで読む万葉集』
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青春出版社さんの「地図とあらすじで読む」シリーズの万葉集バージョン。万葉集の歴史・人物・土地などの周辺知識を、分かりやすく図解入りで説明したものです。
系統立てて学べますが、万葉歌の歌の説明はあっさりめなので、教科書的というか、男性的というか、かなり色気に欠けるのも事実です。私もそうでしたが、その分だけすんなりと読みやすく感じられましたので、男性にいいかもしれませんね。
なお、この本は新書サイズの『図説 地図とあらすじでわかる!万葉集』としても発売されています。図や地図が減らされていますが、持ち歩きしやすいサイズですから、お好みでどうぞ。
『図説 地図とあらすじで読む万葉集』より。見開きになっていて、右ページに解説が、左ページ図や地図が掲載されています。教科書的な見せ方ですが、系統立てて学びたい方には最適ですね
人物のページ。代表的な歌人「額田王(ぬかたのおおきみ)」の解説です
万葉歌の紹介と、それにまつわる当時の風習の解説。とても分かりやすいのですが、主役であるはずの万葉歌がやや扱いが小さいのが残念です
その2.『面白くてよくわかる!万葉集』
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『面白くてよくわかる!万葉集―美しい日本語で紡がれる和歌を学ぶ大人の教科書』は、現代語訳が付けられた万葉歌の紹介に、分かりやすいエピソードが添えられていて、ショートストーリーのように読み進められます。
文法解釈や歴史的な背景などの解説は控えめのため、人物の相関関係を把握したりすることは出来ませんが、とても読みやすく、どちらかと言うと女性的な作りだといえるかもしれません。気軽に万葉集の魅力に触れられます。
『面白くてよくわかる!万葉集―美しい日本語で紡がれる和歌を学ぶ大人の教科書』より。右ページに解説、左ページには図やイラストです。こちらは歴史や地図というよりは、歌が詠まれた背景などを中心に解説しています
間人皇后が天智天皇に贈った歌のページ。文法などには触れず、現代語訳と人物の関係性などが説明されています。大きなイラストが使用されているのも特徴ですね
大津皇子と石川郎女。草壁皇子とのライバル関係が簡単に説明されていますが、関係図は3人だけしか登場しないシンプルバージョンです。超短編小説を読んでいくような印象ですね
その3.『楽しくわかる万葉集 (図解雑学)』
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2011年7月発売で、万葉集の初心者本の中では、おそらく現時点で最も新しいもの。イラスト多用・漫画ページあり・豆知識も豊富です。約220ページというボリューム、さらに監修は中西進先生で、お値段1,300円。ページあたり単価では、同種の本の中では最もリーズナブルですね。
万葉歌や歌人たちをきっちりと系統だてて紹介していくのではなく、ある程度ラフな分類で、万葉集の世界の概略を見ていくような構成になっています。お勉強的にではなく、現代語訳付きの万葉歌を読んでいくうちに、自然とその背景や雑学までを覚えていく。こんな読み方になるでしょう。
とはいえ、これだけのページ数に雑学や解説がてんこ盛りですから、情報量は相当なものです。この本がベストかどうかは人によると思いますが、お値段も手頃ですし、サッと万葉集に触れてみたい初心者の方にはいいかもしれませんね。
『楽しくわかる万葉集 (図解雑学)』の内容。イラストや漫画なども使用して、とにかく賑やかです。まさに「図解雑学」というサブタイトル通りですね
額田王のページ。代表的な歌がいくつか、簡単な系図、像の写真など、てんこ盛りですね
志貴皇子の有名な歌を紹介するページ。「蕨(わらび)」を詠んだ歌であることから、草木の万葉集で詠まれた回数ランキングが掲載されています。こんな雑学が豊富です
大伯皇女が弟・大津皇子の死後に詠んだ歌。歌の解説、死を賜るまでの事情、埋葬地の紹介など、バランス良く紹介されています
その他、こんな万葉集本もあります
これらの初心者向けの本で基礎知識を身につけた後、オススメしたい本を挙げておきます。なお、簡単な「日本の歴史」のような本を読んでおくと、その当時の時代背景が分かりやすくなりますので、余裕があったらどうぞ。
『万葉集入門 (別冊太陽 日本のこころ)』
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万葉集の特集本は数あれど、さすがは別冊太陽。お値段もそれなりにするだけあって(2,625円)、内容は手堅く充実しています。
内容は、●万葉集の古写本●万葉の名歌百首を読む●万葉花の画像入りの解説●関連地めぐりなど。万葉歌には現代語訳と解説がついていて理解しやすいですし、途中に掲載されたコラムもいいですね。奈良を中心とした土地の写真も美しくて、文句のつけようもありません。
ただし、タイトルは「入門」となっていますが、真っ先に読む一冊としてはやや難しいかも。例えば、「この時代の男女関係は、夜になると男性が女性宅へ訪れるものだった(妻問婚(つまといこん))」とか、このレベルの解説はほとんどありません。こんな豆知識を入れておくだけでも理解度と親近感が大きく違ってくるので、まずは別の超入門書を読んで、その後に愛蔵版としてこちらを購入するといいですね。長い間、ずっと大切に読み返したい一冊になってくれると思います。
『超訳 万葉集―心に響く万葉の言葉』
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この本はまだ立ち読みしかしていませんが、なかなか評判が良くて気になっています(後で必ず読みます)。
同種の本は、これまでにも定期的に出版されてきましたが、「超訳」とはいえ余計な装飾はしておらず、シンプルな言葉で表現されているため、読んでいて赤面するようなものではありませんでした。興味がある方はどうぞ!
■関連するURL
万葉集 - Wikipedia
Nippon Archives || 万葉集~ココロ・ニ・マド・ヲ~
たのしい万葉集: 万葉集の入門サイトです