2011-10-31

香木「蘭奢待」も登場した『第63回正倉院展』@奈良博

香木「蘭奢待」も登場した『第63回正倉院展』@奈良博

奈良の秋の風物詩となった『第63回 正倉院展』へ行ってきました。今年の話題は、美しい装飾の刀剣「金銀鈿荘唐大刀」や、有名な香木「黄熟香(蘭奢待)」など。私は正倉院展に行くのは初めてでしたので、華やかな天平時代の宝物たちに魅了されてきました。


聖武天皇・光明皇后ゆかりの品々が出陳

今年で第63回目を迎える、奈良の秋の風物詩『正倉院展』(2011年10月29日(土)~11月14日(月)まで)。聖武天皇と光明皇后ゆかりの品々が出陳されます。そもそも、正倉院に納められた宝物とは、以下のようなものとなります。



756年(天平勝宝8歳)、光明皇后は、夫聖武天皇の七七忌に、天皇遺愛の品約650点と、約60種の薬物を東大寺の廬舎那仏(大仏)に奉献した。その後も光明皇后は3度にわたって、自身や聖武天皇ゆかりの品を大仏に奉献している。これらの献納品については、現存する5種類の「献物帳」と呼ばれる文書に目録が記されている。これらの宝物は正倉院に収められた。


聖武天皇・光明皇后ゆかりの品、東大寺の儀式や仏事に用いられた品などがあり、東大寺の大仏開眼会に実際に使用された品々まで納められています。764年の藤原仲麻呂(恵美押勝)の乱の際には、正倉院の大量の刀剣類が持ち出されたりしましたが、今なお当時の美術工芸のレベルの高さが伺える、世界的に貴重な文化財です。

なお、正倉院の建物は、東大寺・大仏殿の北西に位置する、校倉造(あぜくらづくり)で有名な建築物です。普段は遠くから外観だけ見られますが、今現在、整備工事中のため公開休止中ですのでご注意ください


東大寺(正倉院)-03

以前撮影した「正倉院 正倉」の外観(現在は外観も拝観休止中)。天平時代に建てられた校倉造の建築物です。貴重な宝物は近代的な倉庫で保管されているため、この中には無いのだとか


「香木の香りを体験してみよう」コーナーも

私たちは、開始3日目の月曜日15時くらいに入場したため、待ち時間はゼロ。比較的空いていたため、ゆっくりと観覧できました。

正倉院展というと、普段の奈良では考えられないような常軌を逸した大混雑になる…という話も聞いていましたが、やはり曜日や時間帯によって違うのでしょう。遠方からツアーでいらっしゃった方は仕方ありませんが、時間に余裕がある方は、お昼以降(できれば夕方)に入場するようにするといいですね。

また、チケット販売窓口の前には、協賛の読売新聞社さんのブースがあります。ここの正倉院グッズの販売スペースの裏側には、今年出陳されている香木「黄熟香(おうじゅくこう)」と、同じ種類の香木「沈香(じんこう)」の香りが体験できるスペースがありますので、お見逃しなく!


第63回正倉院展@奈良国立博物館-01

第63回を迎えた『正倉院展』。開始3日目の月曜日、しかも15時くらいに到着したため、噂に聞くほどの大混雑ではありませんでした。午前中やお昼ごろには、1時間近い待ち時間が発生したそうですから、やはり出来るだけ遅めの時間に行った方が良さそうです

第63回正倉院展@奈良国立博物館-02
正倉院展は、奈良国立博物館の新館が会場ですが、その遥か遠くまで行列用テントが続いています!このテントの最後尾は何時間待ちなんでしょうか?ものすごいスケールですね!

第63回正倉院展@奈良国立博物館-03
第63回正倉院展のポスター。上が美しい飾り金具「金銅華鬘形裁文(こんどうのけまんがたさいもん)」で、下が美しい刀剣「金銀鈿荘唐大刀(きんぎんでんそうのからたち)」。この他、織田信長が切り取ったことで有名な香木「黄熟香(おうじゅくこう。蘭奢待)」などが出陳されています

第63回正倉院展@奈良国立博物館-04
チケット窓口の向かい側には、協賛の読売新聞社さんの物販と情報ブースがあります。正倉院ぬり絵とかトランプとか、面白いものがありますね。奈良博内のショップでは、蘭奢待の形のキーホルダーやチョコレートなど、かなりの珍品も登場していました!

第63回正倉院展@奈良国立博物館-06
読売新聞社さんのブースの奥には、「香木の香りを体験してみよう」というコーナーが。蘭奢待と同じ種類の香木「沈香(じんこう)」の最高級品とされる「伽羅(きゃら)」の香りなどが体験できます。蘭奢待に近い香りなのかどうかは分かりませんが、楽しい企画ですよね。匂いをかいでみましたが、なかなか強烈なお香臭でした(笑)

第63回正倉院展@奈良国立博物館-07
奈良博の前の通路も、こんなにガランとしていました。会場内はさすがに混雑していて、ガラスケースの周りを人が二重三重に取り囲むような状況でしたが、決して苦痛なほどではありませんでした。やはり出来るだけ遅めの時間に入館した方が空いているんでしょうね

第63回正倉院展@奈良国立博物館-08
正倉院展の会場前。館内は完全に写真撮影禁止です。定期的に「ボランティア解説」も行われていますので、これを聞いてみるのもいいですね


七条織成樹皮色袈裟・金銀鈿荘唐大刀など

第63回正倉院展@奈良国立博物館-09
正倉院宝物に関する書籍では、圧倒的な充実度を誇る『正倉院美術館 ザ・ベストコレクション』と『正倉院の世界 (別冊太陽)』。この2冊から引用しながら、今回の正倉院展を簡単に振り返ってみたいと思います


第63回正倉院展@奈良国立博物館-10

出陳されていた「七条織成樹皮色袈裟(しちじょうしょくせいじゅひしょくのけさ)」。正倉院の宝物を記した「国家珍宝帳」の筆頭に記載されたものです。まさに聖武天皇が身につけたとされる袈裟で、そえを包む布、しまう箱も含めて展示されていました。近代に複製されたものも展示してあり、色合いの違いが分かりやすかったです(『正倉院美術館 ザ・ベストコレクション』より)

第63回正倉院展@奈良国立博物館-11
同じく「七条織成樹皮色袈裟」を紹介した『正倉院の世界 (別冊太陽)』のページから。この袈裟はモザイク状に見えるよう、とても凝った織り方になっているのだとか。当時の日本では、これだけの色数を出すのも大変だったそうです

第63回正倉院展@奈良国立博物館-12
献物箱と献物几のページ。向かって右手の淡い青の「碧地金銀絵箱(へきじきんぎんえのはこ)」と、供物を置く机「粉地彩絵几(ふんじさいえのき)」が出陳されていました。いずれも、東大寺にあった「千手堂」で使用されていたもの。箱の内部や机の脚の部分など、間近で見ると細やかな色彩がつけられていることが分かります(『正倉院美術館 ザ・ベストコレクション』より)

第63回正倉院展@奈良国立博物館-13
今回の主役級の扱いだった「金銀鈿荘唐大刀(きんぎんでんそうのからたち)」。儀礼用に使われた刀で、装飾の金具と水晶玉がとにかく見事!両刃のまっすぐな刀身も魅入られてしまうような美しさでした。この展示ケースの前には長い行列ができていて、係の方が「立ち止まらないでください」と注意していていました(『正倉院美術館 ザ・ベストコレクション』より)

第63回正倉院展@奈良国立博物館-14
とにかく美しい「紅牙撥鏤尺(こうげばちるのしゃく)」と「緑牙撥鏤尺(りょくげばちるのしゃく)」。儀式用の尺のため目盛はついていません。「ばちる」とは牙や骨を彩色して行う工芸手法のこと。こんなに美しい装飾が可能な技法ですが、後世には残らなかったのだとか。これをモチーフにしたグッズが多数販売されていました(『正倉院美術館 ザ・ベストコレクション』より)

第63回正倉院展@奈良国立博物館-15
今回の目玉の一つでもあった香木「黄熟香(おうじゅくこう)」。別名を「蘭奢待(らんじゃたい)」と言います(名前三文字の中に東大寺の文字が隠されています)。東南アジア産の沈香で、足利義政、織田信長、明治天皇など、歴代の権力者が切り取っていったことで知られています。切り取り箇所を示す付箋が貼ってありますが、これは明治時代のもので、切り取った部分に根拠はないのだそうです(『正倉院美術館 ザ・ベストコレクション』より)

第63回正倉院展@奈良国立博物館-16
756年当時の東大寺の寺域を示した図「東大寺山堺四至図(とうだいじさんかいしいしず)」。光明皇后が聖武天皇の病気平癒を願って建立したとされる新薬師寺が大きく描かれていて、近年の旧本堂の遺構発見に繋がりました。この図を後の時代に写したものが『東大寺ミュージアム』で見られます(『正倉院美術館 ザ・ベストコレクション』より)


簡単に感想を記しておきます。

●私は初めての正倉院展だったため、以前の内容とは比較できませんが、やや地味めだという声はよく耳にします。華やかな螺鈿細工の宝物が登場してないので、確かに華やかさには欠けるのかもしれません。

●国家珍宝帳の筆頭に掲載されている、聖武天皇が(ひょっとしたら大仏開眼の際にも)着用した「七条織成樹皮色袈裟」などは、とても興味深いですね。今はだいぶ色褪せていますが、まだ色彩は十分に感じられます。貴重な舶来の染料を使用して染められたものなんでしょう。ロイヤルファミリーとそれを作った職人さんの姿まで垣間見えるようで、歴史の重みが感じられました

●昨年、東大寺金堂鎮壇具の金銀荘大刀が、光学調査によって正倉院から持ち出されて行方不明になっていた「陰宝剣」「陽宝剣」と判明しました。蔵から持ち出されたことを記録した文書「出蔵帳」や、古式を伝える刀子(とうす)なども出陳されていて、一連の流れを連想しながら見るとより楽しめます。今は錆びてしまった陰宝剣・陽宝剣も、今回展示されていた刀剣「金銀鈿荘唐大刀」くらい見事だったのかと想像してしまいますね。

●今回の主役級の香木「黄熟香(蘭奢待)」は、私が予想していたよりも遥かに大きくて(長さ156cm)、迫力がありました!これに関連して香炉などの出陳もありますし、香木を使った小さな刀「沈香把鞘金銀荘刀子(じんこうのつかさやきんぎんそうのとうす)」など、その香りを想像したりしながら、関連付けてみてみるといいですね。

●初めての正倉院展でしたが、やはり数多くの方を魅了してきただけあって、素晴らしいですね。書籍と実物とでは全く印象が違いますし、未見のものは「いつか見たい!」と思ってしまうのでしょう。全ての宝物をチェックして、コンプリートしたくなりますね。何故みんな大混雑覚悟で観覧に行くのか分かるような気がしました。


書籍で予習・復習しておくとベターです

今回、参考にした正倉院の宝物関連の書籍を紹介しておきます。簡単なものを事前に一冊読んでおくだけでも理解度は違ってくると思いますので(私は『正倉院の世界 (別冊太陽)』で予習しておきました)、まず図書館で探してみるといいでしょう。正倉院展のグッズ売り場でも手に入りますので、来年以降のためにもぜひお土産として購入してみてください。

ちなみに、宮内庁が管理する「正倉院」のページでは、宝物の画像と簡単な説明が読めますので、こちらを観ておくのもいいですね。


正倉院美術館 ザ・ベストコレクション (講談社ARTピース)正倉院美術館 ザ・ベストコレクション (講談社ARTピース)
杉本 一樹 米田 雄介

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368ページで「3,360円」となかなか高価ですが、収録点数も多く、画像も豊富で最良のカタログです。画像が見開き2ページ、次の2ページで説明というパターンで、解説も詳細です。まさに「ベストコレクション」という充実の内容ですね。


正倉院の世界 (別冊太陽 日本のこころ)正倉院の世界 (別冊太陽 日本のこころ)
北啓 太

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正倉院の歴史や特色などを解説しながら、二百点の画像で宝物を紹介しています。楽器・伎楽面・遊戯具・家具・鏡・装身具・武器など、正倉院に収められた宝物はさまざまですが、どれも眩いばかりの技術の粋が込められているんですね。精緻な螺鈿細工などに圧倒されます。正倉院展の前にこの本で予習して行きましたが、美術工芸的な観点からだけではなく、歴史的な興味も増えました。


すぐわかる正倉院の美術―見方と歴史すぐわかる正倉院の美術―見方と歴史
米田 雄介

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私はまだ読んでいないのですが、ウチの奥さんが読んで分かりやすかったそうです。前の2冊がやや学術的なのに比べて、より入門的な内容になっています。図書館などでも見つかると思いますので、まずはここから読み始めるといいかもしれませんね。



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■奈良国立博物館

HP: http://www.narahaku.go.jp/index.html
住所: 奈良県奈良市登大路町50番地
電話: 050-5542-8600(NTTハローダイヤル)
休館日: 月曜日(休日の場合は翌日休み)
開館時間: 9:30 - 17:00
観覧料: 平常展 大人500円、大学生250円、高校生以下は無料(特別展の料金はその都度決定)
駐車場: 周辺の有料駐車場を利用
アクセス: JR・近鉄「奈良駅」から、市内循環バス外回り(2番)「氷室神社・国立博物館」バス停下車すぐ(近鉄奈良駅から徒歩約15分)


●第63回 正倉院展

会期: 2011年10月29日(土)~11月14日(月)
休館日: 正倉院展の会期中は無休
開館時間: 9:00 - 17:00
拝観料: 平常展 大人 1,000円、大学生・高校生 700円、中学生・小学生 400円

※閉館の1時間30分前から販売する割安の当日券「オータムレイト」などもあります(大人 700円など)。詳しくは ホームページ でご確認ください。


■参考にさせていただきました!

正倉院 - 宮内庁
正倉院 - Wikipedia


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