
企画展『すべて見せます万葉日本画~人物~』@万葉文化館
明日香村の『奈良県立万葉文化館』で、館のコレクションを展示する『すべて見せます万葉日本画~人物~』(2016年1月5日~2月21日)を拝見しました。万葉集の歌をモチーフにした日本画「万葉日本画」がずらりと並び、万葉集好きな人間にはたまりません!図録の写真なども交えて簡単にご紹介します。
館蔵品の全154点を3期に分けて展示
万葉集を中心とする日本の古代文化を紹介する施設『奈良県立万葉文化館』(Facebook)。ユニークな展示があったり、万葉集関連のライブラリーを備えていて、ミュージアムショップでは関連書籍が豊富。私が万葉集を好きになったのも、何割かはこの施設のおかげだといえるほどです。
これまでに何度も来ている施設ですが、この日は企画展『mind of Manyo part 2 すべて見せます万葉日本画~人物~』(2016年1月5日~2月21日)を拝見しました。
万葉文化館では、万葉集の歌やエピソードをモチーフにした日本画「万葉日本画」を数多く所蔵しています。こうした館蔵品の全154点を3期に分けて一挙に展示する、という企画の第2期目になります。残念ながら第1期(テーマは「花鳥」)は見逃してしまったのですが、今回の「人物」はとても素晴らしい内容でした!
(※ちなみに、第3期「風景画」は、2016年5月21日~7月31日に開催予定だそうです)
万葉文化館の会場入口部分。企画展『mind of Manyo part 2 すべて見せます万葉日本画~人物~』の大きなパネルがあります。この絵は日本画家・青山博之さんの「寿歌─十市皇女」という作品です。悲劇的な運命を辿った女性の姿を、やわらかく、どこか切なく描いています。モチーフとなった歌は、近侍していたと思われる 吹黄刀自(ふきのとじ)が詠んだ「河の上の ゆつ岩群に 草生さず 常にもがもな 常処女にて」
チラシの表面。この絵は、森田りえ子さんの「撫子」。印刷物で見てもきれいですが、実物は細密で鮮やか!色彩と華やかな柄が重なって目眩がしそうなほどの美しさでした
チラシ裏面。掲載されているのは、平山郁夫さんの「額田王」、高橋天山さんの「山のしづく」、吉井東人さんの「讃酒」(大伴旅人が渋い!)などなど。私自身、これまで万葉文化館の館蔵品をまとめて見る機会がなかったので、この企画は本当に楽しかったです!
図録「万葉日本画の世界」からご紹介します
会場はもちろん撮影禁止ですので、万葉文化館の館蔵品を収録した図録「万葉日本画の世界」から、今回展示されていた作品の中から好きだったものをご紹介します(以下同様)。青山宣幹さんの「刻(とき)」という作品。山上憶良の長歌「世間は住り難きを哀しびたる歌」(巻5-804)をモチーフにしています。金地に鮮やかな色彩。華やかで美しい屏風です
御所出身の日本画家・畠中光亨さんの「春柳葛城山」という作品。もとの歌が好きなこともあって、この絵がもっとも印象に残りました。「春柳 葛城山に たつ雲の 立ちても坐ても 妹をしそ思ふ」(柿本人麻呂歌集、巻11-2453)。画面いっぱいに青くそびえる葛城山。白い雲と柳の下には愛しい人の姿が。雄大でモダン。素敵な作品ですね!
チラシにも掲載されていた、高橋天山(秀年)さんの「山のしづく」。四曲の屏風絵で、大津皇子と石川郎女の逢引のシーンを描いています。「あしひきの 山のしづくに 妹待つと わが立ち濡れし 山のしづくに」(巻2-107)「吾を待つと 君が濡れけむ あしひきの 山のしづくに 成らましものを」(巻2-108)。やや小高い丘の巨樹の下で、背後にもやわらかな山が描かれています。もっと森のなかのようなイメージだったので、この絵を見てなるほどと思いました
小山硬さんの「熟田津─額田王」という作品。百済救済のために斉明天皇が遠征した際の潮待ちの歌。額田王の「熟田津(にきたつ)に 船乗りせむと 月待てば 潮もかなひぬ 今は漕ぎ出でな」(巻1-8)という有名な歌を描いています。静かな夜の海、穏やかな表情。イメージが膨らむ作品ですね
石川義さんの「祈り」。光明皇后が遣唐使として派遣される藤原清河に下賜した歌「大船に 真楫繁貫(まかぢしじぬ)き この我子を 唐国へ遣る 斎へ神たち」(巻19-4240)を描いています。危険な遣唐使船の旅の無事を願った印象的な絵ですね
大森運夫さんの「貧窮問答歌」。もちろん、教科書にも載っていた山上憶良の同名の歌がモチーフです。貧しい庶民たちの生活の苦しさをリアルに歌い、それを題材に描くとこんな感じになるんですね!
繊細なタッチが絶妙な、松村公嗣さんの「花にほふ」という作品。「見渡せば 向つ峰の上の 花にほひ 照りて立てるは 愛しき誰が妻」(大伴家持、巻20-4397)。見かけた誰かの妻の美しさをたたえた歌ですが、描かれた女性の美しさは歌から想像していた以上かも。透明感があって、素晴らしい作品でした。
常設の「万葉劇場」「歌の広場」なども
万葉文化館の地下1階には、万葉集にかかわる様々な展示があります。「歌の広場」では等身大の人形がいて、映像や音などを交えてその当時の世界を再現しています。これは歌垣のシーン。ちょっと珍スポット的な雰囲気もありますね(笑)
街角で野菜を売るおじいさん。リアル!
この時代の年表にそって、ジオラマで紹介していくコーナーも
奈良の大仏さまを鋳造しているところ。あんな大きな方をどうやって作ったのか、とても分かりやすいですね
こちらは遣唐使船。この他にも、アニメーションなどを用いた「万葉劇場」、自然の音と光を体験できる「さやけしルーム」など、ちょっと不思議なコーナーがあります
万葉文化館の建物は「飛鳥池工房遺跡」の上に建てられています。7世紀後半~8世紀初め、金・銀・漆・ガラスなどの製品を作っていた工房跡の遺跡で、中庭のようなスペースに復元展示されています。なかなか不思議な光景ですね。本物の遺構はこの4m下に埋め戻されているとか
地下1階の「特別展示室」。飛鳥池工房遺跡の紹介と、最古のお金「富本銭」などの紹介も
「万葉絵はがき写真」という機械もありました。万葉文化館の風景と自分の顔写真を合成して、実際に使える絵はがきとしてプリントアウトしてくれる、というもののようです。なるほど!
■奈良県立万葉文化館
HP: http://www.manyo.jp
Twitter: @manyoasuka(非公式)
Facebook: https://www.facebook.com/nara.manyo
住所: 奈良県高市郡明日香村飛鳥10
電話: 0744-54-1850
休館日: 月曜日(祝日の場合は翌日)、年末年始、展示替日
開館時間: 10:00 - 17:30
観覧料: 大人 600円、学生 500円、中学生以下 300円
駐車場: 無料
アクセス: 近鉄橿原線「橿原神宮前駅」から、奈良交通バス飛鳥駅行き「赤かめ」で20分、「万葉文化館西口」下車すぐ
※実際に拝見したのは「2016年2月7日」でした。
■mind of Manyo part 2 すべて見せます万葉日本画~人物~
HP: http://www.manyo.jp/event/detail.html?id=140
期間: 2016年1月5日(火)~2月21日(日)
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