『なら仏像館 保存修理工事現場 特別見学会』@奈良博
奈良国立博物館の西洋建築『なら仏像館』(重文)は、改修工事を行っています。運良く、その現場を間近で観られる特別見学会に当選したため、参加してきました。煉瓦造りに瓦屋根、美しいレリーフも間近に観られましたし、こんな体験は一生に一度だけでしょう。高所恐怖症の私ですが、参加して良かったです(笑)
2日間で96名しか参加できない狭き門
奈良市の『奈良国立博物館』(Wikipedia)の旧本館となる、明治時代の西洋建築「なら仏像館」(重要文化財)。2014年9月より大規模な改修工事を行っており、2016年春(予定)まで閉館中です。
その工事現場を間近から観られる「なら仏像館保存修理工事現場 特別見学会」という企画が催されました。
工事現場の細い仮設足場を登ったりするため、1回あたり8名ずつしか現場へ入れません。3月4日・5日の2日間で、参加できるのはわずか96名のみ。この狭き門に約330人もの応募があったのだとか!
平日の開催、18歳未満の方は参加不可、応募は往復はがきでのみなど、厳しい条件だったので、まさかそんなに競争率が高くなるとは思っていませんでしたので、本当に当選してラッキーでした(笑)
「なら仏像館保存修理工事現場 特別見学会」の案内。まずは仮設テントで受付を済ませます。工事現場の敷地に入ってからはヘルメットを被り、いくつもの注意事項の説明も受けました
西側正面の状態。ここの入口は普段は閉ざされています。この仮設足場で一番高いところまで上ります!なお、この企画は「雨天中止」でしたが、直前に小粒の雨が降ってきてヒヤヒヤしました。いいタイミングで降り止んだため、無事に見学できました
明治を代表する建築家「片山東熊」設計です
奈良博の旧本館は、1895年に帝国奈良博物館として開館しました。設計者は、明治を代表する建築家「片山東熊」(Wikipedia)。来日したジョサイア・コンドルの最初の弟子であり、代表作の「迎賓館赤坂璃宮」は、明治以降の建築として初めて国宝に指定されています。
伝統的な日本建築ばかりだった古都・奈良の中心部に、突如として洋風建築が建てられたため、当初は「景観を害する」という批判的な意見も多かったようです。しかし、1世紀以上が経ったいま、すっかり古都の風景に馴染んでいます。
これは以前に撮影した「なら仏像館」の写真。夜のライトアップの様子です
細部を眺めると、とても凝った洋風建築であることが分かります。建物の本体は煉瓦造で、外観の腰基礎部分には花崗岩を、柱や飾り石には凝灰岩(沢田石)を用いています。見た目からは分かりませんが、120年も経つといたるところに問題が発生するようです
西側正面の軒の上には「櫛型ペディメント」(くし型かざり)と呼ばれるパーツがあります。今回はここを間近に拝見できます!
ヘルメット着用。注意事項も念入りに
まずは、注意事項の説明と、なら仏像館の建物についての解説など。工事現場への立ち入りは危険がともないますので、念入りに禁止事項の説明がありました。図のA地点とB地点をじっくりと拝見できます
この距離感です。細くて揺れる仮設足場で、ゆっくりと上へ向かいます。なお、こうした壁部分も、高圧洗浄機を用いて汚れをとったりするそうです
普段はなかなか細部まで見たりしませんが、壁面にこんな文様があったりします。こうしたパーツもきれいに修復されていきます
防水シートを敷き、銅板も新しくなりました
まずは北側の屋根の部分から。遠くに若草山が見えます。こんなところからこんな風景が観られるのは、これが最初で最後でしょう
係の方が屋根の上で解説してくれました。2014年の豪雨の際に、ここに水がたまってしまい、銅板のつなぎ合わせ部分から室内へ雨水が侵入してしまいました。今回の改修工事で、銅板を新しくするだけではなく、野地板の上に防水シートを敷く、水を適切に排水できるようにオーバーフロー管を設置するなどの対策がとられます
パネルは以前の姿。銅が錆びて緑がかった「緑青」になっています。この状態になると腐食を防ぐ効果があるとされてきましたが、現代ではもう銅色のままで長期間維持のだとか。ただ、緑青を見慣れているため、外から見える部分はこの最初からこの色のものを使用し、ここのように外から見えない部分は銅の色のままにしておくそうです
手前の手すり状のパーツも、上を銅板で覆うようになりました。柔らかく加工しやすい凝灰岩を使用しているため、傷みが激しく、それを保護するためだとか。下からはほぼ見えないため、外観上の変化はないそうです
見学会の間も、職人さんたちは作業中です。仮設足場は揺れて怖いのに、さすがはプロですね、軽快に歩いています。今回の工事は、地元奈良で社寺建築などを手がける「尾田組」さんが担当なさっています
入口上部「くし型かざり」も目の前に!
さらに上へ!高さ約10mほどまで上ります
西側正面の軒の上にある「櫛型ペディメント」が目の前に!その中央と両脇には、社寺建築の鴟尾(しび)のようなパーツも設置されています。これだけ間近で観られるなんて!
花びらがモチーフでしょうか、複雑で優美な曲線ですね
アーチの両脇にあるパーツ。これは北側のものですが、南側の部分は孔が開けられていて、なんらかの小動物が棲みついたような痕跡があったとか。贅沢な住まいですね!
くし型かざりの中央のレリーフ。細やかで見事!
このレリーフも、風雨にさらされ続けていたため、表面が脆くなっていたとか。強化剤を含ませ、さらに揮発剤で表面をコーティングする処理を行ったそうです
色の違っている部分は、大きく修理したところでしょうか。今後も百年単位で後世に遺っていって欲しいですね
中央の飾り部分と、その向こうには部屋のような部分が見えます
ここの窓枠の飾りの連続が素晴らしい!
瓦屋根と西洋建築が融合しています。いま観てみると、特に違和感も感じませんが、当時は衝撃的だったんでしょうね!
仮設足場からの眺め。興福寺の五重塔と、再建中の中金堂の覆い屋が見えます。貴重な体験をありがとうございました!
■奈良国立博物館
HP: http://www.narahaku.go.jp
住所: 奈良県奈良市登大路町50番地
電話: 050-5542-8600(NTTハローダイヤル)
休館日: 月曜日(休日の場合は翌日休み)
開館時間: 9:30 - 17:00
駐車場: 周辺の有料駐車場を利用
アクセス: JR・近鉄「奈良駅」から、市内循環バス外回り(2番)「氷室神社・国立博物館」バス停下車すぐ(近鉄奈良駅から徒歩約15分)
※奈良国立博物館「なら仏像館」は、2014年9月より、建物内外の改修工事のために休館しています(2016年3月まで予定)。
■参考にさせていただきました
【読売新聞】明治洋建築の粋 目前
【奈良新聞WEB】「彫刻が素晴らしい」明治の建築技術感動 - 奈良博仏像館の修理現場見学
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