2014-05-10

「奈良の大仏さま」を描いた、大人も楽しめる絵本など4冊

「奈良の大仏さま」を描いた、大人も楽しめる絵本など4冊

奈良の大仏さまを建立する様子を記した絵本など、何冊か読みました。どれも面白いものばかりでしたので、まとめてご紹介しておきます。お子さんにはもちろん、大人が読んでも楽しめますよ!

●加古里子さんの絵本『ならの大仏さま』 ●香取忠彦さんの児童書『新装版 奈良の大仏』 ●寮美千子さんの『生まれかわり―東大寺大仏縁起絵巻より』と続編『祈りのちから』


『ならの大仏さま』加古里子 著

奈良の大仏さまが造られた時代背景などを、丁寧に描いた絵本。大人が読んでも十分に楽しめる内容ですね。

作者の「加古里子」さん(かこさとし)は、日本の著名な絵本作家さん。本書は1985年に福音館書店から刊行されたものを、2006年に復刊ドットコムへのリクエストが集まり復刊したものだそうです。

本書では、奈良の大仏さまが造られた当時の奈良の町の様子や仏教伝来の道、聖武天皇や光明皇后の願い、行基菩薩の活躍、大仏建立の作業工程、開眼供養の様子、大仏炎上と再建、日向から大虹梁など、大仏さまを護ってきた人々の歴史が分かりやすく描かれています。

さらに、歴史的な背景の説明として、藤原兄弟の病死、藤原広嗣の乱、京に大仏が造られて奈良の大仏さまがずっと露座していたことなど、かなり詳細な説明もありますので、日本史にあまり詳しくない方にもいいですね。

最大の特徴は、お子さん向けの絵本という体裁を取りながらも、分かりやすく地図や数値を織り込んで、当時と現代を比較しようと試みていることです。平城京と平安京の大きさを比較できる図があったり、天皇家の系図、当時の役人の収入一覧、国分寺・国分尼寺の伽藍配置の図、東大寺の造仏などを担当した造東大寺司の組織図など、かなり丁寧ですね。

もちろん、ややこしいばかりの内容ではなく、あれだけ大きな大仏さまをどうやって作ったのかなど、かなり丁寧に解説されていますから、東大寺へお詣りにいらっしゃる方(お子さんも大人も)は、事前にこの絵本に目を通しておくといいですね。


加古里子『ならの大仏さま』-02

加古里子『ならの大仏さま』-03

加古里子『ならの大仏さま』-04

加古里子『ならの大仏さま』-05


『新装版 奈良の大仏』香取忠彦 著


奈良の大仏さまと大仏殿の建立の様子を、主に建築などの技術的な内容をメインに、テキストとイラストで解説した一冊。1981年に草思社から刊行されたものが、2010年の平城遷都1300年祭に合わせて、ソフトカバー新装版で登場したものです。

大仏さまが造られた歴史的な背景も簡単に紹介されますが、建造資材を集めるところから、東大寺周辺の土地をならしたり、下から何段にも分けて鋳造していった様子など、かなり詳しく教えてくれます。難解な説明になりがちなテーマですが、大きめのイラスト入りでとても分かりやすいですね。

特に男の子(と中年男)が好みそうな内容です(笑)

説明文:「奈良の大仏の建造は、日本が統一されてから初めて行われた国家的な規模の大事業であった。史上空前の大鋳造仏建設の波瀾に富んだ全過程を描いた力作。当時の日本の人口の約半分に当たる人が動員された巨大建設。金工・美術史の研究者が、天平時代の鋳造技法を推定し、それにもとづいて、イラストレーターが大仏建造のはじまりから終わりまでを描きあげた、その建造のしくみ。」

私もとても楽しく読み終えたのですが、この本で以前からの疑問がひとつだけ溶けました。

大仏さまを造る際に、当初は内側に土砂が詰められています。これを入れたままにしておけば像としての強度は増すのに、何故かわざわざ取り除いているんですよね。これにはちゃんと理由があるそうです。

「大仏に鍍金をするとき、水銀を高温で蒸発させるのですが、内部に土砂がつまっていると、火力が半分以上吸収されてしまって、うまくいかないからです。」

知らなかった!大人でもそんな小さな発見がたくさんある本でした。小さなお子さんにはやや難しいと思いますが、ぜひ大人もこどもさんも読んでみてください!

香取忠彦『新装版 奈良の大仏』

香取忠彦『新装版 奈良の大仏』-01

香取忠彦『新装版 奈良の大仏』-02

香取忠彦『新装版 奈良の大仏』-03

香取忠彦『新装版 奈良の大仏』-04


『生まれかわり―東大寺大仏縁起絵巻より』

こちらは、奈良在住の作家・寮美千子さんが手がけた、「絵巻物」の絵に分かりやすい文章をつけて絵本にした「やまと絵本」のシリーズ作品で、以前にもご紹介しています(紹介記事)。

室町時代の初期(1536年)に東大寺僧によって編纂された『東大寺縁起絵巻』をもとに、大仏造立を発願した聖武天皇のエピソードが語られます。「古代の奈良を舞台にしたファンタジーアドベンチャー」といった内容で面白いんです!

お釈迦さまの前に集まった観音・弥勒・文殊・普賢の菩薩たちは、大仏を発願した聖武天皇、東大寺の開基である良弁、大仏造立の勧進を行った行基、落慶法要で導師を務めた菩提僊那として、天平の奈良に現れます。

また、聖武天皇の前世は僧侶を助けた「ラクダ引きの男」であったとか、ちょっと驚くような設定もありました。

ベースとなった室町時代の「東大寺縁起絵巻」は、20巻の難解な絵巻物を庶民にも分かりやすいように編集しなおし、これを使って寺への寄進を募るために作成されたものです。だからこそ、お話は分かりやすく、エンターテイメント性も必要だったんですね。

大人が読んでも十分に楽しめる絵本ですから、ぜひ手にとってみてください!


寮美千子『生まれかわり―東大寺大仏縁起絵巻より (やまと絵本)』-01

寮美千子『生まれかわり―東大寺大仏縁起絵巻より (やまと絵本)』-02

寮美千子『生まれかわり―東大寺大仏縁起絵巻より (やまと絵本)』-03


『祈りのちから―東大寺大仏縁起絵巻より』


同じ東大寺縁起絵巻を題材とした続編に当たる『祈りのちから―東大寺大仏縁起絵巻より (やまと絵本)』も出版されています。こちらは大仏造立に尽力した良弁や、後の時代の重源の身に起こった奇跡を描いたものです。

こちらも合わせて読みましたが、負けず劣らずの面白さでした。

出版元の長崎出版の都合により、新刊では手に入りづらくなっているそうです。奈良の書店や図書館であれば見つかる可能性も高いかと思いますので、ぜひ探してみてください!


寮美千子『祈りのちから―東大寺大仏縁起絵巻より (やまと絵本)』-01

寮美千子『祈りのちから―東大寺大仏縁起絵巻より (やまと絵本)』-02






  • Twitterでフォローする
  • Facebookページを見る
  • Instagramを見る
  • ブログ記事の一覧を見る







メニューを表示
ページトップへ