充実の特別展『山の神仏-吉野・熊野・高野』@大阪市立美術館
大阪市天王寺区「大阪市立美術館」で開催中の特別展『山の神仏-吉野・熊野・高野』(2014年6月1日まで)。世界文化遺産登録10周年を記念した企画だけに、ボリュームも充実度もすごいです!古くから信仰を集めたエリアの貴重な仏像・神像・曼荼羅など、間近でじっくりと拝見できました。
世界文化遺産登録10周年記念の特別展
役行者を祖とする修験道の拠点「吉野・大峯」、全国に広がる熊野信仰の中心「熊野三山」、真言密教の根本道場「高野山」。この三霊場が「紀伊山地の霊場と参詣道」としてユネスコ世界文化遺産に登録されたのが、2004年のことでした。
現在、世界文化遺産登録10周年を記念した特別展『山の神仏-吉野・熊野・高野』が開催中です(2014年6月1日まで)。
ボリューム満点の素晴らしい展示内容だという評判は聞いていましたので、大いに期待しながら出かけたのですが、想像以上のすごさでした!また、この日は平日でしたし、内容がかなり渋めなこともあってか、館内はかなり空いていたのもありがたかったですね。
会場は大阪市天王寺区の「大阪市立美術館」です。有料の「天王寺公園」内(天王寺動物園のすぐ近くですね)にあり、近鉄南大阪線「大阪阿部野橋駅」など、最寄り駅から徒歩10分ほどで到着します
『山の神仏(かみほとけ)』展の大きなポスター。メインビジュアルに「狛犬」(奈良・吉野水分神社)が使用してあるのも渋いですね!13世紀・鎌倉時代のもので、見とれるほどの凛々しさです。会場には和歌山・丹生都比売神社の狛犬も展示してあり、違いを見比べるのも楽しかったです
大阪市立美術館のホール部分には、写真撮影用の大きな壁と、蔵王権現立像のパネルが。ホール部分は撮影可ですので、ぜひ記念撮影してください
大阪市美の建物は、1936年に建てられた豪華な近代建築です。財閥・住友家の本邸があった敷地を、美術館の建設のため庭園「慶沢園」とともに大阪市に寄贈されたのだとか。美しい近代建築「大阪府立中之島図書館」と同じような流れですね
会場限定で販売されているオリジナルグッズの数々。蔵王権現・役行者・前鬼後鬼・素朴な神像など、ここでしか手に入らない渋いラインナップです。スタッフさんの気合が伝わってくるようです!
吉野曼荼羅・四社明神・熊野曼荼羅など
吉野大峯・熊野三山・高野山という三霊場の貴重な宝物が集まっていますので、内容の濃さは文句なしです。
私たちが拝観に行ったのは、後期展示が始まってすぐの「2014年5月9日」。14時半くらいに入館しましたが、大阪市美の1階~2階まで使ってのボリュームのある展示のため、まったく時間が足らず、最後の熊野エリアの部分は駆け足になってしまいました。皆さんはペース配分にお気をつけください。
仏像や神像、曼荼羅といった形で、それぞれ聖なる山への信仰の形が表されているのですが、エリアごとに特徴があるんですね。私はそれほど詳しい知識を持ちあわせていないため、とても興味深かったです。
例えば、神仏を描いた掛け軸なども多数展示されていますが、その内容は驚くほど違っています。
●吉野大峯は「吉野曼荼羅」。蔵王権現を中心に、大峯八大童子・男神姿の勝手明神・女神姿の子守明神などが描かれる
●高野山は「四社明神」。男神姿の高野明神・女神姿の丹生明神と気比明神・琵琶を持った女神姿の厳島明神が描かれる。高野明神は、高野山開山の逸話に基づいた黒白の犬を連れた狩場明神としても図像化されている
●熊野は「熊野曼荼羅」。熊野三山の主祭神・三所権現に、五所王子・四所明神を加えた十二所権現が描かれる、とても賑やかなもの。神の姿だったり、本地仏として仏の姿だったりバリエーション豊富
私自身は、どちらかというと仏像や神像を拝見するのが好きなタイプですが、これらの仏画類もとても面白かったですね。また、広大な境内や山内の様子を描いた「参詣曼荼羅」の類も面白くて、遠近法が取り入れられるはるか前のヘタ絵的な要素が観られるのも楽しかったです。
図像でもっともインパクトがあったのが「天川弁財天曼荼羅図」(奈良・能満院。画像はすべて図録から)。弁財天は通常は女神として描かれますが、こちらは三面十臂の蛇頭人身!お顔が3匹の蛇です。同じ水を司る神・宇賀神を頭上に頂くのではなく、習合しちゃったんですね。16世紀の作で、ここまではっきりと観られる図はインパクト大です!
仏像も神像も充実!2時間じゃ足りません
仏像や神像についても見どころが多く、気になったところをすべて紹介していったらきりがないくらいです(笑)
聖なる山の山頂へ埋めて奉納した小さな金銅仏がたくさん拝見できたり、お厨子の中では正面からしか観られない仏さまを360°ぐるりと観られたり。奈良・桜本坊「役行者倚像」(鎌倉時代)などは、衣に薄っすらと文様が残っているのも間近に確認できました。役行者さんは修験道の開祖ですから、真っ白な衣装で修業なさっていたイメージですし、そういう像として作られていたと思い込んでいたので、ちょっと意外でした!
また、国生み神話に登場する夫婦神「伊邪那岐(いざなぎ)神坐像」「伊邪那美(いざなみ)神坐像」(和歌山・熊野速玉大社)は、奥さまの方が明らかに大きく迫力があったりします。
また、吉野・大峯好きな奈良県民としては、以下の仏さまたちを拝見できたのも嬉しかったですね。いわゆる奈良の仏さまらしい古仏ではなく、多様性に驚きました。
●「役行者母公倚坐像」(奈良・桜本坊)。役行者のお母さん(一般的に「白専女(しらとうめ)」の像で、14世紀のもの。口を大きく開けた野性的な表情に描かれており、背後を見ると荒々しく鑿跡(のみあと)が残っています。
●「聖徳太子・二王子立像」(奈良・金峯山寺)。1274年のもの。聖徳太子像の像高は159.7cm。髪型は少年のような角髪(みずら)を結って、数多い孝養像のようですが、体が分厚く、堂々とした体躯。高僧像のような力強い衣紋も見事で、太子像としては珍しいタイプかもしれません
●「天狗立像」(奈良・喜蔵院)。大峯山寺の護持院に伝わるもので、江戸時代の作。像高69.1cmと、鼻も体も堂々とした大天狗です。奈良にもこんな立派な天狗像があったんですね。大峯山の麓の洞川・母公堂で秋葉権現像を拝見して以来かも。
いずれも普段は目にできないような貴重な宝物ばかりですから、ぜひ間近で実物をご覧ください。
5月8日~18日までという、タイトなスケジュールで展示されている重文「蔵王権現立像」(奈良・如意輪寺)。鎌倉時代に仏師・源慶が制作したもので、見事な厨子入りで素晴らしいです!ガラスケース越しでしたが、間近でじっくりと拝見できるなんてありがたいですね。厨子の天井までじっくりと観察できますよ!
初めてお会いできた国宝「熊野速玉大神坐像」(和歌山・熊野速玉大社)。像高101.2cmと、想像以上の大きさです。展示室の遠くの方からそのお姿がちらりと見えただけで、迫力が違いましたね。ぐるりとお背中まで拝見できました
山の神仏展でもっともインパクトのあったのが「両頭愛染明王坐像」(和歌山・金剛峰寺)でした。16~17世紀のもの。愛染さんとお不動さんの頭が並んでいるんです!Twitterで「厄神明王」と呼ばれるものかも、と教えていただきました(こちら)。この方にお会いするためだけでも、足を運ぶ価値はあります!
あべのハルカス美術館『東大寺』展も
また、大阪市立美術館のすぐ近く、話題のスポットにオープンした『あべのハルカス美術館』では、開館記念特別展は『東大寺』展を開催中です。
私はすでに一度拝見していて、「あべのハルカス美術館 開館記念特別展『東大寺』@大阪市」という記事に感想をまとめています。
しかし、4月15日の展示替えから、大きなアフロヘア的な髪型が特徴の東大寺「五劫思惟阿弥陀如来坐像」と、奈良市・五劫院(紹介記事)の「五劫思惟阿弥陀如来坐像」が並んで展示されるという、かなりレアな光景が観られるようになっています!
このお姿の仏さまは、歴史上でもほんの一時期しか造られませんでしたし、現存しているものは極めて貴重です。そんな2体の揃い踏みなんて、めったにあり得ないでしょう。会期は「2014年5月18日(日)まで」ですから、ぜひご覧ください!
なお、大阪市美「山の神仏」とあべのハルカス美術館「東大寺」は提携していて、チケットを購入する際にもう一方の半券を提示すると割引が受けられるそうです。この週末は展覧会のハシゴをしてみるといいですね。
「あべのハルカス美術館」の宣伝用のビジュアルにも、「五劫思惟阿弥陀如来坐像」2体そろった姿が登場していました。ここでは同じサイズにしてありますが、大きさも違います。そして表情やポーズなど、色んな違いがあります。対面した者の誰もを笑顔にしてくれる仏さまですね!
美術館のフロアには、お釈迦さまが生まれた場面を表した釈迦誕生仏に甘茶をかけてお祝いする「花会式」の一式もあります。甘茶をかけてお祝いしてください!
■大阪市立美術館
HP: http://www.osaka-art-museum.jp/
住所: 大阪府大阪市天王寺区茶臼山町1-82
電話: 06-6771-4874
休館日: 月曜日(祝日の場合は翌日)
開館時間: 9:30 - 17:00
駐車場: なし(最寄りは「天王寺公園地下駐車場(有料)」)
アクセス: 近鉄南大阪線「大阪阿部野橋駅」より徒歩10分ほど
●特別展「山の神仏(かみほとけ)-吉野・熊野・高野」
HP: http://www.osaka-art-museum.jp/sp_evt/deities-of-the-mountains/
Twitter: @Kami_Hotoke2014
会期: 2014年4月8日(火)~6月1日(日)
観覧料: 大人 1,400円、高校大学生 1,000円
※実際に拝観したのは「2014年5月9日」の後期展示でした。
■参考にさせていただきました
大阪府・大阪市立美術館「山の神仏展 吉野エリアの巻き」 : ひたすら仏像拝観
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