明治の賓客気分が味わえる『賓日館』@伊勢市二見
お伊勢さん参りの翌朝、友人達と別れて、一人で二見町にある『賓日館』へ行ってみました。
ここは、明治時代に賓客をもてなす宿泊施設として建築された豪華な建物で、「メレンゲが腐るほど恋したい」さんのレポを見てから、ずっと気になっていたところです。ホント、想像以上の素晴しさでした!
賓客をもてなした明治の豪奢な建築物
伊勢市二見町にある『賓日館(ひんじつかん)』。1887年に伊勢神宮を参拝する賓客用の宿泊施設として、崇敬団体・神苑会によって建築された建物です。
明治天皇の母君の宿泊に間に合うようにと、明治19年12月に着工し、翌2月19日に竣工したというのですから、すざましい突貫工事ぶりですね。1本の釘も使わずに、短期間でこんな素晴しい建物を建ててしまうのですから、伊勢周辺の職人さんは並大抵の技術レベルでは無かったのでしょう。
その後、明治44年(1911年)に、三重県初の政府登録国際観光ホテルであった「二見館」に払い下げられ、1999年まで貴人の宿泊所として営業を続けてきましたが休業し、2003年に二見町へ寄贈されました。現在はNPO法人によって管理され、内部を拝観したり、会議室・展示会場として利用されています。
数々の賓客を迎えた建築物ですから、明治期の豪奢な和洋折衷の作りになっていて、とにかく豪華です!
伊勢市二見町にある『賓日館』。明治20年(1887年)、伊勢神宮に参拝する賓客をもてなすために建てられたもので、着工からわずか3ヶ月で竣工したのだそうです。幼い頃の大正天皇など、様々な皇族方が宿泊されてきました
賓日館の正面玄関。ここから入れるのは身分の高い人のみで、今でも拝観者は脇にある通用口から入館します。こんな建物を3ヶ月で作ってしまうなんて、驚きですね!
玄関にはお花が飾ってあります。赤い絨毯と、椅子の緑色の座面のコントラストが美しいですね
入館してすぐの階段。ゆるやかに左折れする木の階段がいいですね。1階部分は、中庭と資料展示コーナーなどがありますが、順路は2階から
階段の親柱には、彫刻家・板倉白龍作の「二見蛙」が彫られています。親柱と同じクスノキから一木で掘り出されたものだとか。撫でられてテカテカに光ってます
光と影が作る、陰鬱な雰囲気がいい!
順路に従って2階に上がると、中庭を囲んだ廻廊部分がもうすでに感動モノでした。賓客をもてなすために、一切手を抜かずに作りこまれていることが伝わってきますし、そんな100年以上も経過した建物が、ほぼ当時のまま残されているというのもすごいことですね。
大きな窓からは日差しが差し込んできますが、それが影を作ったときの雰囲気が、いかにも日本的で美しいのです。
この日は日曜日ということもあって、他にも何組かの拝観者がいらっしゃいましたが、皆さんとても静かに明治・大正期の雰囲気を味わっていたようでした。
2階に上がってすぐの廊下。中庭を囲んだ廻廊のようになっています
中庭側の窓の下は、斜めにスライドして風を入れる、格子状のスリットになっています。窓ガラスの感じといい、古くていい物が使われていることが分かります
窓を開けて中庭を見てみたところ。日本の歴史的な建築物は、光と影のコントラストがいいんですよね。少し陰鬱な雰囲気があって、とても落ち着きます
中規模の広間「翁の間」。細部まで見ても、全く飽きない調度ですが、ここは会議室・展示室として使用できるのだそうです!ちなみに料金は、伊勢市民以外の方であれば「10,500円/1日」。この他に、1時間300円の照明設備使用料がかかります
中広間「翁の間」の窓際部分。何てことの無い一角に見えますが、窓や手すり、奥の衝立など、本当に素晴しいんですよね
桃山式の豪勢な120畳大広間!
賓日館のメインの大広間は、「桃山式」というスタイルで、折上げの格天井とシャンデリアが美しい、とても贅沢な作りになっています。周りを取り囲む廊下部分も、全く手を抜かず、とにかく手が込んでますね。
誰もいない120畳の大広間に座っていると、とっても落ち着くような、逆に場違いなような、ちょっと不思議な感覚に襲われます(笑)
賓日館の「大広間」。舞台付きの120畳!折上げの格天井に、豪華絢爛なシャンデリア!明治期らしい和洋折衷っぷりです。静かに風だけが抜けていく、とても気持ちのいい時間を過ごせました
大広間の周囲は、グルリと廊下が取り囲んでいます。ここの天井もとても凝った作りになっていました
逆側の廊下。広々としたお庭を見下ろせる、絶好のロケーション。「ここが旅館だったら宿泊代金はいくらになるの?」と、余計な心配をしたくなるほどの豪華さです!
大広間の一角。贅を尽くした細工彫りの数々が、とにかく見事でした!今回は私が撮影しているため、アングルが曲がっててスミマセン・・・。
窓際に座れば賓客気分が味わえます
大広間から先に進むと、数々の賓客が宿泊した「御殿の間」が現れます。二見の海と日本庭園を一望できる絶好のロケーションにあり、格式高い「二重格天井」などの調度も見事。
窓際には椅子が置いてあって、海からの風を感じながらお庭を眺めていたりすると、本当に時の経つのを忘れてしまいますね。とんでもなく贅沢な時間が過ごせました。
廊下に掲げられていた、歴代の皇族の方々の来訪履歴。明治20年の皇太后様から始まって、ずずずいっと。さすがに最近はもう途絶えていますが、歴史を感じます
皇族の方々も宿泊されたという「御殿の間」。二間続きで、二見の海と庭園が一望できます。最高レベルの格式の「二重格天井」など、ほぼ創建当時のまま残っているそうです
コチラも「御殿の間」。窓際に並んだクラシックな椅子に座って、のんびりとお庭を眺められるなんて、最高の贅沢ですね。思わず長居したくなります
2階にある「千鳥の間」では、こんな日本人形の展示が。周囲の空気にすっかり馴染んでますが、一瞬ギョッとしました(笑)
1階には展示スペースもあります
1階部分は、様々な資料の展示スペースになっています。また、二見町出身の日本画家「中村左州」の作品の展示などもありました。展示スペースは蔵を改装したもので、残念ながら写真撮影は禁止でしたが、賢覧豪華な「大名行列屏風」などが見られます。
また、中庭もそれほど広くはありませんが、とても雰囲気のあるものでした。周りをグルリと見て歩けますので、色んな角度から楽しんでみてください。
1階の展示コーナー。二見ホテルに払い下げられ、その別館として営業していた当時のものでしょう。机を取り囲む格子(帳場格子というそうです)や、脇の火鉢など、本当に雰囲気がありますね!
1882年に、二見が「日本最初の海水浴場」として国からの指定を受けて以来、有田焼や輪島塗の業者がしきりに営業にきて、貴重な焼き物などを残していったそうです。文化財クラスのものも多数残されているんでしょう
廊下にも展示ケースが並んでいます。二見の町について、また伊勢神宮の式年遷宮の資料などが展示してありました
廊下にも、こんな橋をモチーフにした飾りがあったりと、隅々まで凝ってます。これが朱色に塗ってあったりすると興ざめなんですが、落ち着いたいい色合いで、しっくりと馴染んでいました
中庭をもう一枚。こんなお庭を眺めてのんびりとした時間を過ごせるんですから、とにかく贅沢ですね
2時間も飽きずに過ごせました!
この他、1階の続きの和室部分では、日本画家・池田金晄さんの「神仏の世界展」という展示もありました。単純に絵を並べるのではなく、各部屋の床の間に1~2枚ずつ作品を飾るという、とても贅沢な展示方法で、思わず畳の上にドッカリと腰を下ろして見入ってしまいました。
カメラ片手に一人っきりでお邪魔したのですが、全く飽きることもなく、2時間近くも過ごすことができましたからね。伊勢方面へ観光にいらっしゃった方は、ぜひ立ち寄ってみてください。個人的には、夫婦岩よりも数倍楽しめました!
6部屋の小さめの和室が続く一角。この日は、全室を使用して仏教画の展示を行っていました
お部屋の様子。和室の間には、お次の間のような狭いスペースが設けられています
仏教画の展示会を開催中・・・とはいっても、ズラリを絵を並べるような品のないことはいたしません。各お部屋の床の間に1~2枚ずつ、品が良く展示されています。贅沢な企画ですね!
1階のお庭に面した廊下部分は、ガラス戸・障子・天井・照明など、全て2階よりも簡素になっているのが分かります。こちらは皇室関係者のお付きの方が使っていたんでしょう
1階の「ことぶきの間」。説明書きには「床挿しの天井」が特徴とありました。通常は床の間と並行してつけられる「竿縁」を、床の間に向けて配してある、かなり珍しいものなんだそうです。正直・・・、私は全く理解できませんでした(笑)
賓日館のお庭部分。ここを歩いたりは出来ないようでしたが、のんびりと眺めているだけでもホッとしますね。数十メートル先は二見の海があるなんて、信じられないような静けさでした
賓日館のすぐ目の前には、海が広がっています。幼少のころの大正天皇が海水浴をしたのも、この辺りなんでしょうね
■賓日館(ひんじつかん)
HP: http://www.hinjitsukan.com/
住所: 三重県伊勢市二見町茶屋566-2
電話: 0596-43-2003
定休日: 火曜日(祝日の場合は翌日休)
営業時間: 9:00-16:30
拝観料: 300円
駐車場: 無料駐車場あり
アクセス: JR「二見浦駅」から徒歩12分