2013-07-19

斎王の暮らしが分かる『斎宮歴史博物館』@三重県明和町

斎王の暮らしが分かる『斎宮歴史博物館』@三重県明和町

「斎王」という、皇族から選ばれた未婚の女性が伊勢神宮の神にお仕えするための宮があった「史跡 斎宮跡」。その歴史や生活ぶりを紹介する施設『斎宮歴史博物館』へ行って来ました。飛鳥時代に、謀反を疑われて処刑された大津皇子の姉である「大来皇女」も居した場所で、渋い展示ですがとても楽しめました!


伊勢神宮に奉仕した「斎王」が居た場所です

「斎宮」(さいくう、いつきのみや)とは、古代から南北朝時代にかけて約660年間続いた、伊勢神宮に奉仕した斎王(さいおう)の居所のこと。

日本書紀によれば、崇神天皇が宮中に祀られていた天照大神を、皇女・豊鍬入姫命に命じて大和国の笠縫邑に移したことが斎王の始まりとされています。次の垂仁天皇の時代、皇女・倭姫命が各地を巡行した末に伊勢国に天照大神を祀り(伊勢神宮です)、その近くに斎王がこもる宮を造ったのが最初の斎宮のようです。

それ以降、天皇が即位するたびに、未婚の皇女の中から斎王が選ばれ、伊勢神宮へ仕える制度が確立。南北朝時代まで続けられ、歴代で60余人の斎王が存在します。

斎宮については、『源氏物語』『伊勢物語』『大和物語』などの古典文学にも記され、後に西行法師がこの地を訪れ、衰退したさまを嘆いています。

しかし、私が個人的に斎宮に興味を持ったのは、飛鳥時代に謀反の疑いをかけられて処刑された「大津皇子」の姉である「大来皇女(大伯皇女。おおくのひめみこ)」の存在からでした。天武天皇の息子で、有力な皇位継承者でありながら、後に我が息子を皇位につけたいと考えた持統天皇らの企てによって無実の罪をきせられたと考えられています。

たったひとりの姉・大来皇女はすでに伊勢の斎王となっていましたが、自らの死期を悟ったのか、男子禁制の斎宮へ忍んでいき、一夜だけ姉弟で語り合ったとされています。大来皇女が帰路につく弟を見送って詠んだ歌が万葉集にありますので、ご紹介しておきます。

我が背子(せこ)を 大和へ遣(や)ると さ夜更けて
暁露(あかつきつゆ)に 我が立ち濡れし
大来皇女 万葉集 巻2-105
わが弟を大和へ送り返さなければならぬと、夜も更けて朝方近くまで立ちつくし、暁の露に私はしとどに濡れた。
ふたり行けど 行き過ぎかたき 秋山を
いかにか君が ひとり越ゆらむ
大来皇女 万葉集 巻2-106
二人で歩を運んでも寂しくて行き過ぎにくい暗い秋の山なのに、その山を、今ごろ君はどのようにしてただ一人越えているのだろうか。


大来皇女にはは、大津皇子が処刑され遺体が葬られた二上山に向かって詠んだ歌などもあります(巻2-163~166)。切ない兄弟の思いが伝わってきますので、ぜひ調べてみてください。


立派なジオラマや映像で斎宮が蘇ります

そんな斎宮の所在地は長い間不明になっていましたが、昭和に入って三重県明和町で遺跡が発見され、史跡公園「斎宮跡」として保護・整備されています。

史跡内には『斎宮歴史博物館』が建てられています。これは2つの「常設展示室」と、映像作品が上映される「映像展示室」などを備えた近代的な博物館で、模型やジオラマ、文献展示など、さまざまな角度で斎宮を紹介しています。

正直なところ、かなり渋いテーマの博物館のため、誰にでも理解できるようなものではありませんが、「皇族から選ばれた未婚の女性が、伊勢神宮の神にお仕えするためにこもった宮跡」と考えておくと想像が膨らむと思います!


斎宮歴史博物館@三重県明和町-01

三重県明和町にある『斎宮歴史博物館』。史跡公園「斎宮跡」にある大きな建物です。この周辺も見どころはたくさんありますが、この日は日差しが照りつける猛暑日だったため、すぐに涼しい館内へ逃げ込みました(笑)

斎宮歴史博物館@三重県明和町-02
斎宮歴史博物館のポスター。伊勢神宮の天照大神へお仕えする独身の皇女がいらっしゃった場所であることが伝わってきますね

斎宮歴史博物館@三重県明和町-04
ロビーには、優雅な貴族風の顔ハメがありました

斎宮歴史博物館@三重県明和町-05
朱色に塗られた「朱彩大型土馬」。奈良時代の祭祀に使用されたもので、これが発掘されたことで、ここが斎宮跡だと判明したのだとか。素人目には分かりづらいですが、作りが丁寧で彩色もよく残り、しかも大型であるなど、とても貴重なものだそうです

斎宮歴史博物館@三重県明和町-06
第一展示室の様子。大きめの模型や人形、ジオラマなどを用いて斎宮の成り立ちを解説しています。この時は空いていましたが、時おり団体バスが到着して一気に賑やかになります

斎宮歴史博物館@三重県明和町-08
奈良時代ごろの衣装の展示。斎王が使用していたと考えられる輿「葱華輦(そうかれん)」の再現などもあり、なかなか凝っています

斎宮歴史博物館@三重県明和町-10
歴代斎王のプロフィールを書いたパネル。これまでに60余人の斎王がいます。それぞれ独身の皇女で、この地で神に仕え潔斎していました

斎宮歴史博物館@三重県明和町-11
「延喜式(一条家本)」のレプリカ。10世紀の社寺などについての法律で、斎宮に関してもここで「斎宮式」として規定されています。斎宮がやるべきことなど、かなり細かく書かれています

斎宮歴史博物館@三重県明和町-12
江戸時代に写された「続日本記」など。この他にも「延喜式(太神宮式)」など、レプリカなども含めて貴重な資料が多数展示してあります

斎宮歴史博物館@三重県明和町-15
「延喜斎宮式」などの資料をもとに、斎王の御殿を復元した模型。実際の10分の1サイズで、かなり大きめ。上からも覗き込めますが、こんなアングルから見るとより楽しいですね!

斎宮歴史博物館@三重県明和町-16
斎王が伊勢神宮へ出向いて行う儀式の様子を、模型とそこに映像を投影して再現したもの。斎王は、榊の枝に麻の繊維をつけた「太玉串(ふとたまぐし)」を奉ることが主な役割であり、正殿の前まで来ながらも、中には入らなかったのだとか

斎宮歴史博物館@三重県明和町-18
平安時代に伊勢へ向かう斎王一行の再現模型。都から旅立つのは夜のこと。斎王に仕える者だけではなく、見送りの勅使や斎宮まで同行する者など、総勢200名を越える大所帯だったそうです

斎宮歴史博物館@三重県明和町-17
京を発った斎王たちの行程を表したジオラマ。まずは近江へ向かい、瀬田→甲賀→垂水→鈴鹿→壱志と、各頓宮に滞在しながら斎宮を目指します。帰京の際にはまた別のルートをたどるなど、かなり複雑なようです

斎宮歴史博物館@三重県明和町-20
斎王の居室の実物大模型も!平安時代の貴族風ですね

斎宮歴史博物館@三重県明和町-21
お正月の食事の再現。きゅうりやお魚など、刻んだものを単品ずつ積み上げてあります。神に捧げる神饌の意味合いが強いんでしょうね。決して美味しそうなものには……

斎宮歴史博物館@三重県明和町-22
映像展示室もあります。上映されるのは「斎王群行」「今よみがえる幻の宮」などが順番に上映されていますが、私たちが観た回は、双子タレントの三倉茉奈・佳奈さんが登場する「斎宮を歩く」でした!まだ中学生くらいの時に出演したものでしょうか、ちょっとビックリしました(笑)


発掘資料を展示する「ものからわかる斎宮」

第2の展示室は「ものからわかる斎宮」と題し、発掘資料などから斎宮の歴史を解説しています。大きな発掘現場の再現ジオラマを中心に、その周囲を時代別に紹介しています。この手の展示は見慣れていますが、さすがに奈良のものとは遺物の内容も違いますね。豪華な形の硯(すずり)などが見つかっていて、中国的な雰囲気が感じられました。

また、いつまで展示されるか不明ですが、発掘された際に話題になっていた、日本最古のひらがな「いろは歌」が描かれた墨書土器の展示もありました(詳しくはこちら)。地味ながら貴重なものですので、ぜひ拝見しておきましょう。


斎宮歴史博物館@三重県明和町-24

第2の展示室の中央には、遺跡の発掘現場の再現ジオラマがあります。かなり大きくて立派なものです

斎宮歴史博物館@三重県明和町-25
奈良時代の「蹄脚硯(ていきゃくけん)」の脚部です(重文)。こんな豪勢な硯があるんですね!

斎宮歴史博物館@三重県明和町-26
同じく奈良時代の「羊形硯(ひつじがたすずり)」(重文)。こんな硯が、こんなに立派な形で遺されているのもすごいですね

斎宮歴史博物館@三重県明和町-28
発掘された土器や木簡など、時代別に展示されています

斎宮歴史博物館@三重県明和町-29
マグネット式で土器の形を復元するゲームもあります!対戦型なのがすごい!負けた側は磁力が無くなり、どどどっと落ちるようになっています(笑)

斎宮歴史博物館@三重県明和町-30
ひらがなで「いろは歌」が書かれた墨書土器。平安時代後期の11世紀末~12世紀前半頃のもので、斎王に仕えた侍女がひらがなを練習したものと考えられているそうです。日本で最古のものなのだとか


10分の1サイズの「史跡全体模型」もあります

史跡「斎宮跡」には、奈良時代の古道跡、斎王の森、さまざまな遺跡があります。その一角に「10分の1 史跡全体模型」という、当時の斎宮の区割りや建物を再現した施設があります。かなり大きめで迫力があります!

説明によると、ここの建物の特徴は、屋根瓦がないこと(瓦は仏教徒ともに入ってきた外来文化のため)、そして礎石がないこと(伊勢神宮と同様に掘立柱建築だったため)などなのだとか。とても分かりやすくなっていますし、リトルワールド的で楽しいですね(笑)

なお、この日は入館できませんでしたが、平安装束を着る体験ができたり(十二単で3,500円など)、古代の遊びの盤双六・貝覆い・蹴鞠などが体験できたりする『いつきのみや歴史体験館』という施設もあります。合わせて立ち寄ってみてください!

関西方面から車で伊勢神宮へお参りする方は、伊勢自動車道の「玉城IC」(約20分)、「松阪IC」(約40分)で降りれば立ち寄れますので、ぜひどうぞ!


斎宮歴史博物館@三重県明和町-31

斎宮歴史博物館から車で数分の距離に、『いつきのみや歴史体験館』と10分の1の史跡全体模型があります。史跡 斎宮跡はかなり広めですから、移動はなかなか大変です

斎宮歴史博物館@三重県明和町-32
10分の1の史跡全体模型。写真では分かりづらいですが、かなり大きくて迫力があります!ちょっとしたリトルワールドです!

斎宮歴史博物館@三重県明和町-33

斎宮歴史博物館@三重県明和町-34



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■斎宮歴史博物館

HP: http://www.bunka.pref.mie.lg.jp/saiku/index.shtm
住所: 三重県多気郡明和町竹川503
電話: 0596-52-3800
休館日: 月曜日(祝日の場合は営業)、祝日の翌日、年末年始
開館時間: 9:30 - 17:00
拝観料: 大人-330円、高大学生-220円、中学生以下 無料
駐車場: 無料駐車場あり
アクセス: 近鉄山田線「斎宮駅」から徒歩15分ほど

※実際にお邪魔したのは「2013年7月8日」でした


■参考にさせていただきました

斎宮 - Wikipedia
斎宮歴史博物館 - Wikipedia
いつきのみや歴史体験館 - 斎王の生活を体験してみよう!






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