書評『奈良で出会う 天皇になった皇女たち』(淡交社)
「旅とくらしの玉手箱 フルコト」あるじのお二人が、文章とイラストを担当した書籍『奈良で出会う 天皇になった皇女たち』(淡交社)が発売になりました。推古・皇極(斉明)・持統・元明・元正・孝謙(称徳)天皇と、飛鳥・奈良時代の六人八代の女帝の事績を親しみやすく描き、奈良県内を中心にゆかりの土地を紹介しています。視点も切り口も、愛情あふれる文章も、美しいイラストも、すべてが素敵な一冊でした!
六人八代の女帝を奈良でたどる一冊
奈良が日本の中心であった飛鳥・奈良時代は、女性も歴史の表舞台で活躍した時代でした。200年弱の間に8代(6人)の女性 天皇が即位して、その事績をたどれば、日本史上の大きな決定が多くなされていることに気付かされます。本書は女帝にスポットをあてて、そのゆかりの地をイラストと写真で紹介していきます。古代ロマンを味わいながらの奈良の旅は、また一味違っ たものになるでしょう。推古天皇、皇極(斉明)天皇、持統天皇、元明天皇、元正天皇、孝謙(称徳)天皇をはじめ、光明皇后や他の皇女についても触れています。
【古代の女帝(推古天皇、皇極[斉明]天皇、持統天皇、元明天皇、元正天皇、孝謙[称徳]天皇)をテーマにめぐる奈良の旅。】
「内容紹介」より
『奈良で出会う 天皇になった皇女たち』(出版社サイト)という本が出版になりました。
著者は、奈良きたまちでディープな奈良アイテムの販売などを手がけるお店『旅とくらしの玉手箱 フルコト』の“あるじ”である「生駒あさみ」さん。そして、イラストは同じフルコトくあるじのお一人「上村恭子」さんが担当なさってます。
お二人とも以前からの友人ですし、奈良を愛する者の端くれとしても、こういうテーマの本は読みたいと思っていましたので、とても楽しく拝読しました!
『奈良で出会う 天皇になった皇女たち』(淡交社)の表紙
脚色されていない女帝たちの姿
『奈良で出会う 天皇になった皇女たち』で取り上げられているのは、飛鳥・奈良時代に天皇の座についた8代(6人)の女帝たちです。即位した天皇の、約半数は女性だったという、特別な時代でした。
本書では、そんな女帝たちの事績をわかりやすく紹介し、奈良県内を中心にゆかりの土地などを紹介しています。とはいえ、後世の者たちが勝手に作り上げたようなストーリーは語られません。あくまでも歴史書「続日本紀」などの記述をもとにしており、信頼感がありますね。
たとえば、「称徳天皇と道鏡は男女の仲だった」などという根拠のない論は取りません。
(※重祚した称徳天皇は、藤原仲麻呂の)乱後、道鏡を大臣禅師に任じた。その詔で、仲麻呂がどんなに性根が汚く邪な人間であったかを述べ、道鏡のことを「いたって清らかで、仏法を受け継ぎ広めようとし、自分を守り導いてくれる師である。本人は全く望んでいないが大臣禅師の位を授ける」としている。幼い頃から権力の中心にいて、人間の汚い、醜いところを見ざるを得なかった称徳天皇にとって、清らかな道鏡は心の拠りどころだったことだろう。
『奈良で出会う 天皇になった皇女たち』
P98~99より
女性天皇を扱ったものには、メロドラマ的な脚色がされてしまうことも少なくありません。本書では不明な点を余計なストーリーで埋めたりせず、女帝たちの姿を表しています。
この時代の日本は、内乱や飢饉など、問題が山積していました。そんな時代のトップとして君臨した女帝たちだからこそ、立場の重さや孤独さなどもあったでしょう。たっぷりと想いを馳せることができました。
本書では飛鳥・奈良時代の8代(6人)の女帝が登場します(推古天皇、皇極[斉明]天皇、持統天皇、元明天皇、元正天皇、孝謙[称徳]天皇。さらに特別に光明皇后も)。写真は、皇極天皇(2度目に皇位についた際には斉明天皇)の扉ページ。その時代の年表が掲載されています。上村恭子さんの美しいイラストが彩ります
女性天皇の生涯がわかりやすく解説されます。古代のことなので、登場する人名などはやや難しいですが、歴史上の事件とその人の関わりなどが平易に語られます。天皇在位中に何が起こったのかなど、新たな気づきがたくさんありました
さらに、奈良県内を中心に、それぞれのゆかりの場所が紹介されます。皇極天皇だと、都を営んだ「飛鳥宮跡(伝飛鳥板蓋宮跡)」、雨乞いをした「飛鳥川上坐宇須多岐比売命神社」、好んで行ったとされる大規模工事(狂心の渠)の関連として「酒船石遺跡」、西への遠征中に命を落とした福岡県朝倉市の「朝倉橘広庭宮跡」など。充実!
また、女帝のみではなく、数人の皇女・王女たちも紹介されています。写真は、天智天皇の后から藤原鎌足に嫁いだ「鏡王女」。この他、飯豊青皇女、大伯皇女、吉備内親王、井上内親王も取り上げられています
個人的にもっとも面白く読んだのは「元明天皇」の章でした。どうしても次の世代への中継ぎの女帝というイメージが強く、あまり興味がもてなかったのですが、本書では「続日本記」から、平城京への遷都の際のやや消極的な詔や、娘(元正天皇)への譲位の際の気苦労を吐露した詔など、とても人間的に感じられます。続日本記も読んでみたくなりますね!
著者のお二人にサインもいただきました!ありがとうございます!
啓林堂書店で「上村恭子作品展」開催中
その関連企画として、店内で「上村恭子作品展」が開催されています(2017年9月1日~9月30日)。『奈良で出会う 天皇になった皇女たち』に掲載された作品の原画が並んでいて、上下で作品の仕上がり具合を見比べられるようになっています!作品完成の経過が見られるなんて貴重ですね!
同じ「啓林堂書店 奈良店」さんの階段スペースでも、上村恭子さんの作品が展示されています
ずらりと並んだ皇女たち。たおやかであり、儚げであり、妖艶であり、芯の強さがにじみ出ていたり。イメージ通りの雰囲気の方や、意外な描き方の方もいらっしゃったり。ぜひ間近でじっくりと拝見してみてください!
■『奈良で出会う 天皇になった皇女たち』
HP: http://www.furukoto.org/naradeaihimemiko/
著者: 生駒あさみ/著 上村恭子/イラスト
出版社: 淡交社
価格: 1,600円(税抜)
ISBN:978-4-473-04190-6
発売日:2017年8月30日
※A5判、112頁(カラー112頁)
※9月12日(火)19時~、「枚方 T-SITE トークイベント」が開催されるそうです(詳細)