2017-02-23

【雑文】ラーメンの最低ラインは?

【雑文】ラーメンの最低ラインは?

いつごろからか、美味しいお店を食べ歩いたりすることが趣味のようになった。奈良に移ってきたからも何百軒というお店にお邪魔して、「美味しい」だの、「楽しい」だの、その感想を綴ってきたが、“舌が肥える”なんてことはまったくない。


基本的に好き嫌いもほとんどなく、どんな食べ物でも美味しくいただけるタイプだ。そんな人間が、ただ自分が食べたいと思ったお店へ入って、食べたいと思ったメニューを食べているのだから、外れクジを引く可能性はかなり低い。

これが他所から依頼された取材などとなると、またちょっと事情が違ってくるのだが、幸いなことに「これ、ちょっとアレですね……」なんて思った経験もない。




最近は食品流通の技術も発達していて、産地から新鮮なままの食材が届いたりするし、スーパーの冷凍食品売り場には、ありとあらゆるメニューが並んでいて、そのどれもが文句のつけようもなく美味しいのだ。

もちろん、職人さんが目の前で揚げてくれる天ぷらとか、ちゃんとしたお店のものには及ばないにしても、自分のような庶民が喜んで通うような、いわゆる「リーズナブルな飲食店」であれば、もうほぼ文句のつけようのないレベルに達している。現代は“なにを食べても美味しい”という幸せな時代なのだ。




私がこんな風に思うのも、前提に“昔の食べ物には、驚くほど不味いものもあった”という体験があるからだろう。

私は1969年生まれなので、1970年代くらいにベースとなる味覚が形成された。とくに食にこだわった家庭でもなかったが、海の幸山の幸どちらも豊富な田舎町だったため、美味しい魚は毎日のように食卓に並んだし、祖母が作る味噌汁も煮干しダシだった。いま思えば、ちゃんとした昭和の食卓で育ててもらったんだなと思う。

外食する機会なんてほとんどなかった。年に数回、母方の実家へ行く途中に町中の大衆食堂に入ったり、幹線道路沿いのドライブインで食事をしたりする程度だ。いまでもその様子をはっきりと覚えているくらいだから、よほど印象的だったのだろう。

そうしたお店で食べるメニューといえば、圧倒的に「ラーメン」だった。インスタントラーメンは発売されていた時代だが、我が家にはそれを食べるような習慣はなく、外で食べるべきもの=ラーメンだった。この時代の子供は、みんな安上がりだったのだ。




そして、この時代のラーメンには、驚くほど不味いものが存在していた。子供の舌であっても分かるくらいダメなラーメンが、普通に有料で提供されていたのだ。

不味いラーメンの特徴は共通している。ほぼダシの味がせず、お湯に醤油をいれただけのスープ。もさっとした麺は、適切な茹で時間なのか伸びているのかわからない。具材は安っぽいナルトと薄いくせにパッサパサのチャーシューもどき。メンマを噛みしめるとケミカルな甘さが滲み出てくる。これが私のイメージする昭和の不味いラーメンの典型だ。

しかし、そんなものであってもみな平気な顔をしながら食べていた。それどころか、そんなものがご馳走だったのだ。その刷り込み体験のおかげで、現代の不味いラーメンなんてまったくの許容範囲だ。しっかり耐性はついている。ちょっと不味いくらいのそっけない中華そばなんかに出会うと、嬉しくなってしまうくらいだ。




そういうことを考えると、年代によって、育った地域によって、食に対する基礎点は大きく違っていて当然だろう。

たとえば、平成元年の大阪生まれの少年少女であれば、きっと生まれたときからすぐ近くに「餃子の王将」があり、それを食べた経験もはずだ。ひょっとしたら ラーメンのボーダーラインが王将であり、「(王将より)美味しい」「(王将より)不味い」と評価している可能性だってあるだろう。

「ちょっと待ってくれ、王将だぞ? 俺の中で相当旨い部類に入るぞ? 小さい頃からあれを食べてきたのか? サラブレッドだな!」

というくらいのギャップは感じたりする。私の最低ラインと、彼らの最低ラインが同じはずがないのだ。その事実を思うたびに驚愕してしまう。

きっとこれ、体操やフィギュアスケートなどの採点競技と同じようなのかもしれない。昔の金メダリストの演技構成なんて、いまなら中学生レベルでも演じられるはずだ。きっとコマ●チさんなども、「おいおい、土台が違いすぎるやろ!」くらいのことは思っているはずだ。




ほんと、みんな一度くらいは、激安スーパーで20円くらいの中華麺を買ってきて、茹でたお湯に醤油だけ入れて、コショウだけぶっかけて食べてみてください。この「不味いラーメン体験」があるだけで、たいていの不味いものは許せるようになるから。「嫌なニュースはいろいろあるけど、美味しいものが手軽に食べられるいい時代になったもんだな」くらいの境地には達せられるかもしれない。




と、こんなことを言っていると、自分たちよりもさらに上の人たち(「脱脂粉乳は不味かった」を知っている世代)から、「まだまだ甘いな」くらいのことは思われるんだろう。

いずれにしても、食べ物が美味しい時代に生まれて良かったと思う。タイムマシンに乗る機会があれば、未来のコンビニに行ってさらに美味しく進化した肉まんとか食べてみたい。過去に遡るときにはレトルト食品を大量に抱えていきたいと思う。

余談だが、私に「少年はラーメンが大好物であるべきだ」という偏ったイメージを植え付けたのは、松本零士さんさんの漫画だった。大好きな『銀河鉄道999』の主人公・星野哲郎も、好物はラーメンライスだった。アンドロメダまで人々が旅をする未来では、ラーメンはどんな味なのだろう?「ちょっと不味い」くらいだといいなと、意味もなく願ってしまう。










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