アルプスを越えろ! 激走100マイル―― 世界一過酷なトレイルラン
プロランナーの自伝的エッセイ。挫折続きの陸上人生ながら40歳過ぎでトップに。尊敬します!
日本を代表するプロトレイルランナー鏑木毅さんの自伝的なエッセイ。日本でも次第に注目を集めてきている、野山などの不整地を走る「トレイルランニング」の競技で、世界最大の大会でも上位入賞を果たしている第一人者が、これまでの陸上人生やレース中の心境などを語り尽くしています。
個人的に敬愛している、登山家・植村直己さんの『青春を山に賭けて』のような、とても興味深い内容でした。
説明文:「目指すゴールは160キロ先! 「登り」の総計はエベレスト以上!!不眠不休は当たり前、己の極限に挑む世界最高峰レースがいま始まる。モンブラン山峰、富士山麓に立ち向かう地獄の苦しみは、いつしか最高の喜びに変わってゆく――。完走した者だけが得られる新境地、「鉄の心」の秘密とは。四十歳を過ぎてなお国内第一人者であり続けるランナーが、初めて明かした「究極のマラソン」の世界!」
鏑木さんは、ヨーロッパで最大のトレランレース「ウルトラトレイル・デュ・モンブラン」において、最高で3位に入賞しているトッププロです。レースの総距離は100マイル=160キロ!アルプスのアップダウンが激しい山岳地帯を、20数時間も走り続けるのですから、とてつもない体力と精神力が要求されます。そして、何よりもすごいのが、鏑木さんは1968年生まれで、40歳を過ぎても第一線で活躍なさっていることです。私よりも一つ年上に当たるなんて信じられませんし、おこがましいながらも大きな刺激を受けました。
それだけの激しい長距離レースを走っていると、途中にあるエイドステーションで食事するだけでは足らず、栄養補給も走りながら行わなくてはいけません。しかし、走ってずっと揺さぶられ続けた胃は食物を受け付けなくなり、ジェルを流し込んでも嘔吐したくなるほど消耗するそうです。苦しい地点に差し掛かると、「この崖で脚を踏み外せばリタイアできる」などと妄想したりと、レースの激しさが伝わってくるエピソードが数多く紹介されています。
そんなトップランナーですが、早稲田大学で箱根を目指していたそうですが、故障続きで断念。精神的にもおかしくなり3年生の時に退部したのだとか。2浪1留の末、群馬県庁へ入りますが、一時は体重が80キロにまで増えてしまったこともあったとか。そんな状態から十数年後にプロとして活動できるようになるんですから、すごいの一言ですね。
鏑木さんは、現役でレースを続けているのはもちろん、富士山の周りを一周する160キロのロングレース「ウルトラトレイル・マウントフジ」の主催者側の方でもあり、まだマイナーなトレイルランニングの普及に努めていらっしゃいます。
その楽しさと激しさがたっぷりと伝わっきますので、ランナーの方はもちろん、運動不足を自覚している方も、ぜひ手にとって欲しいですね。素晴らしい刺激を与えてくれる一冊でした!