妖怪学の祖 井上圓了 (角川選書)
偉大な哲学者であり、迷信を打破するため妖怪研究を行った井上円了の評伝。興味深い方です!
哲学者であり、真宗寺院に生まれ育った僧侶であり、明治時代の仏教改革家であり、私学「哲学館」(後の東洋大学)の創設者であり、世にはびこっていた迷信を打破するために「妖怪」を研究し、その道の第一人者として知られる人。それが井上圓了(井上円了とも)という人物です。図書館で見かけて何気なく手にとった一冊でしたが、なかなか面白かったです。
説明文:「明治時代、人々は狐憑きやコックリさんなどの怪現象に右往左往していた。若き哲学者の井上圓了は、それらに合理的な道筋をつけることこそが哲学普及につながると信じて奔走。柳田國男からは見地の違いから「井上圓了君には徹頭徹尾反対」と言われながらも、開学した「哲学館」(現東洋大学)で「妖怪学」の講義を行い、日本各地で膨大な怪異談を収集した。妖怪学者であり、哲学者、宗教改革者であった隠れた偉人、初の評伝。」
哲学者であった円了は、妖怪や幽霊を信じる人たちが大多数の当時、それを「迷信」(この言葉自体が円了の造語だとか)だと証明することが哲学を普及させることに繋がると信じました。そこで、全国の怪談話などを収集し、それを徹底的に解明・糾弾していきます。
例えば、文明開化のころに大流行し、警察署がこれを禁じる騒ぎにまでなった「コックリさん」についても、その経緯を西洋人の船乗りが持ち込んだ「テーブル・ターニング」であることを調べ、その正体が人間の潜在意識が期待する方向へと導く筋肉作用であると断じました。こんな活動を続けていくうちに、「妖怪博士」としてその名が知られていきます。
しかし、明治維新の時期に一気に西洋化が進んだ反動もあり、円了の思いとは裏腹に、庶民の間では怪談話が大ブームになっていきます。日本の民俗学の父とされる柳田國男から全否定されたりもしていますし、ラフカディオ・ハーンや泉鏡花などの作品が広まり、円了が変わり者の「開化先生」などと呼ばれてしまうこともあったとか。その他、アーネスト・フェノロサ、柳宗悦、西田幾多郎、内村鑑三、出口王仁三郎、河口慧海など、当時の著名人たちとの交わりも紹介されていて、なかなか興味深いです。
なお、現代でも水木しげるさんの『神秘家列伝 其ノ三』に名前が出てきたり、京極夏彦さんの作品『妖怪の理 妖怪の檻』で紹介されていたりするそうですから、そちらにも目を通してみたいですね。
余談ですが、井上円了は長岡藩の生まれで、私と同じ新潟県人です。長岡藩は戊辰戦争で会津藩ともども敗北しています。このため、後々まで朝敵呼ばわりされ、同じく長岡藩出身の山本五十六も苦労したのだとか。円了は明治維新の10年前に生まれており、戊辰戦争当時の様子を実際に見ていただけに、ずっと官に属さず、在野にあったとされています。
業績が多岐にわたるため、本書は妖怪学についての話ばかりではありませんが、こうした興味深い偉人の業績を知るのも楽しいですね。興味がある方はぜひ!