
『NR』&『NR2』
奈良を舞台にした短編小説を集めた「合同誌」。奇抜な発想とローカルっぽさがいい!
『NR』『NR2』とは、奈良県出身&在住の作家さんたちのサークル「ポニーテールは風にゆれて」さんが発行している同人誌です。商業誌でも活躍中の作家さんたちの短編小説を集めた「合同誌」というもので、2011年・2012年と続けて、夏のコミックマーケットで頒布したものだとか。
同人誌と聞くと、私のようなその世界に詳しくない人間には「クオリティーの低いアダルト漫画」という偏見が混じったイメージしか浮かびませんが、こんな小説のサークルもあるんですね。
奈良出身・奈良在住の作家さんが、奈良に関連するテーマで執筆しているんですから、奈良好きな人間であればニヤニヤしながら読めるでしょう。基本的にはライトノベルですが、実は私はそう分類される本も初めて手にしたのですが、いかにもそれっぽい表現があったりして面白かったです。ちょっとあからさまな奈良ネタが放り込んであったりと、色んな意味で分かりやすいですね。
それぞれ、何名かの作家さんの作品が収められていますので、SFあり、青春モノあり、歴史小説ありと、テイストはばらばら。さらにいえば、クオリティーもばらばらです。単純に「面白い!」と思えるものから、(いい意味でも悪い意味でも)「えっ…!?」と驚くような作品が収められています。こういうところが合同誌の面白さなんでしょうね。ちょっと新鮮な読書体験になりました(笑)
●『NR』(2011年8月発売)
仁木英之「Chu☆は感染」
秋月耕太「然らば、万葉」
箕崎准「愛しているか ー五重塔爆破計画ー」
円居挽「NRRR(ナラララ)
寒河狷介「夏のストレンジャー」
「Chu☆は感染」という作品名の字面がいかにもラノベっぽいですが、考えるまでもなく「中和幹線」のもじりなんですね!ローカルすぎる(笑)
SFテイストが入ったものが多いのですが、個人的に一番楽しめたのは「然らば、万葉」という作品でした。大和盆地が水没して、琵琶湖に次ぐ日本第2位の湖になってしまった後の奈良を描くという、奇抜な設定が楽しい作品です。その発想は無かった!その他の作品もよく練られていますし、奈良の地名や固有名詞が頻出するのも楽しいところです。
ただし、文体や設定が「いかにもラノベ」というところが目立ったりします。登場人物の感情の起伏を行間から読み取らせるのではなく「寂しかった」と直接記述してしまったり、中高生の目立たない少年と美少女といったいかにもな登場人物だったりと気になる点はありますが、私はその手の作品を読み慣れていないのでそれも新鮮でした。
●『NR2』(2012年8月発売
仁木英之「炭酸☆ジンジャー」
秋月耕太「ばけなら!」
箕崎 准「吾輩は鹿である」
前野ひろみち「佐伯さんと男子たち1993」
円居挽「DRDR(ドラドラ)」
ふみふみこ「ひみこ!」
寒河狷介「藤花の城」
人気漫画化「ふみふみこ」さんも参加した作品。前作よりもさらにバラエティーに富んだラインナップで、漫画や本格派の歴史小説まで登場しています。テイストがばらけたことによってより楽しくなったととるか、やや統一感に欠けると感じるかは人それぞれかもしれません。
個人的なお気に入りは、「佐伯さんと男子たち1993」です。常に鹿せんべいを持ち歩く不思議な少女・佐伯さんに、仲良し男子3人組が次々に恋をして…という、ちょっと変わったテイストの青春モノです。このゆるい感じ、いいですね!男子のアホさ加減もよく描かれていて楽しかったです。
なお、このシリーズの編集者さんの名前は「橿原あるる」さん。イオンモールはもうアルルの名前じゃなくなっちゃったけど大丈夫かしら…などと心配したくなるようなローカルネタですね(笑)。また、冒頭から作家さんたちが集まる美味しい焼肉屋さん「たつ屋」さんの紹介から入っていたりして、ちょっとした地元ネタが面白いんですよね。
通販では「COMIC ZIN」さんから、実店舗では奈良きたまちの「旅とくらしの玉手箱 フルコト」さんで購入できます(各800円)。私もこの本の存在をフルコトさんで知って、すぐに購入したクチです。ぜひご一読ください!