日本霊異記の世界 説話の森を歩く (角川選書)
日本最古の仏教説話を分かりやすく。今読んでも面白いです
日本最古の仏教説話集『日本霊異記』のエピソードを、現代訳して分かりやすく解説してあります。一般的には敬遠されがちな地味な内容ですが、奇妙な説話が多く、最後まで興味深く読めました。
『日本霊異記』とは、正式には「日本国現報善悪霊異記」といい、9世紀初頭に編まれた、日本最古の仏教説話集です。私度僧から晩年には薬師寺の僧侶となった「景戒」が編纂したものです。8世紀ごろの大和の庶民の生活ぶりが伝わってくるだけではなく、何とも奇妙な説話が多く収録されています。
この時代に民間に語り継がれていた物語を収録しているため、古事記のような神話的な話と、私たちが聞きなれた昔話が混ざり合ったような、ある種独特の世界観を醸し出しています。日本霊異記自体が、仏教が日本に広がり始めた頃のものですから、「信心さえあればいい」というような、やや偏った内容であることも違和感があり、だからこそ面白いストーリーとして読み直せるんですね。
小さな子が活躍したり(大男を打ち負かす)、強力の女の話や、神と結ばれる神婚のストーリーには様々なバリエーションがあったりと、本書では分かりやすく比較しているため、神話や単なる昔話とはまた違った意味が込められていることが分かります。中にはかなりエロティックでグロテスクなものも含まれるのも面白いですね。
例えば、「女人が石を産み、神として祀る縁」というエピソードでは、処女のまま妊娠し、2つの石を産む女の話が描かれています。女が異形の者を産む話は数多くありますが、産み落とされたものは神の子として天界へ帰ったりするのが普通ですが、この話では石のまま祀られるのみ。女が神を産んだとして崇められたのか、恐ろしいものを産んだと蔑まれたのか、微妙なところなのかもしれません。
日本の有名な昔話の原型とも言える話が見られたり、行基菩薩さんのちょっと危ういエピソードが収録されていたりと、日本霊異記の世界はとても楽しめました。興味のある方はぜひ!