2011-11-08

奈良の平日 誰も知らない深いまち

観光地ではない、のんびりした普段着の奈良が描かれています

タイトルが『奈良の平日 -誰も知らない深い町』。キャッチに「遷都千三百年で再び注目を集める奈良。地元紙記者出身の著者が、寺社・仏像だけじゃないディープなまちの魅力を紹介するこだわり紀行エッセイ」とあります。観光地・奈良としてではなく、貴重な文化遺産とともに地元の人たちがのんびりと暮らす、私の大好きな普段着の奈良が描かれています。

きたまち、ならまち、町中のお地蔵さん、高畑の洋館、近代化遺産、人力車などの乗り物、大和の水景などのテーマに沿って、様々な話題が連続して登場します。さすがは元新聞記者さんですね。話題の振れ幅が程良くて、飽きずに読み進められました。

また、奈良の本で「きたまち」の話題から始まるのも珍しいですね。奈良に惚れ込んだ女性・岡本さんが、店探しに奔走して、ようやく裏路地に物件を見つけて、器と雑貨の「器人器人」をオープンさせるまでのエピソードが描かれています。個人的なことですが、この岡本さんはもちろん、登場してくる方の多くが顔見知りで、読んでいるだけでも楽しめました。“古き良き奈良”ではなく、“今の奈良”を描いている本書ならではの楽しみでしょう。

第三章の「まちなか地蔵さん」の項目も、とても興味深かったです。大和郡山城の築城の際に、石垣の石が足りなくてついにお地蔵さままで使ってしまったのが、有名な「さかさ地蔵」です。しかし、実はこのお地蔵さまは、仏師の失敗作で途中で彫るのを止めてしまったものなのだとか。同じ大和郡山城址にある柳澤神社の神官の方が、さかさ地蔵の迷信が流布されていることに対する不満があることなど、活き活きとした面白いエピソードになっています。

(なお、正暦寺の建造物の築造にも石仏が使用されているなど、単なる石不足ではなく、お地蔵さまの仏の力を借りて石垣を強くする、というような意味合いもあったのではないか、という見方も紹介されています)

奈良の深い話というと、どうしても時代が古代まで遡ったりしがちですが、今の奈良と近代の奈良について、丁寧に取材を重ねて、興味深い話題を次々に提供してくれる一冊です。違ったアングルから奈良を見つめるいいきっかけになるでしょう。

また、完全に個人的な話になりますが、私が奈良に引っ越してきてからもう6年以上が経ちましたが、今まではどの奈良本を読んでも、「知らない奈良について教わる」ニュアンスが強かったのですが、ここまで「自分の地元の本」として共感しながら読めたのは初めてでした。それだけ私が奈良に馴染んできた証拠でもあり、またこの本の魅力でしょう。忘れられない一冊になりました。


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