采女の霊を慰める采女神社の雅な例祭『采女祭』@猿沢池
毎年の「中秋の名月」の夜、猿沢池のほとりにある「采女神社」の例祭『采女祭(うねめまつり)』が行われます。天皇の寵愛が薄れたことを嘆いて身を投げた采女の霊を慰める行事で、JR奈良駅からのお渡り式、猿沢池に2隻の管絃船が浮かび、池面に花扇を奉納する、とても雅なものです。
(この記事の内容は、2013年9月のものです。2014年は「9月8日(月)」に行われます)
悲しい采女の伝説がのこる猿沢池
毎年「中秋の名月」の日、世界遺産「春日大社」の末社「采女神社」の例祭『采女祭(うねめまつり)』が行われます。
采女神社の祭神は「采女命(うねめのみこと)」。奈良時代に、天皇の寵愛が薄れたことを嘆いた采女(天皇の世話をする女官)が、猿沢の池に身を投げたため、この霊を鎮めるため猿沢池のほとりに建てられました。当初は猿沢池が見える東側に向って社殿は建てられましたが、自らが身を投げた池を見続けるのは忍びないと、ひと晩にして西側を向き、猿沢池に背を向ける形となったと伝わっています。
平安時代初期の歌物語『大和(やまと)物語』には、采女が入水したことを聞いた「ならの帝」が、猿沢池に行幸したとあります。その時、後に歌聖と呼ばれる宮廷歌人・柿本人麻呂と帝は、以下のような歌を詠んだとされています。
●柿本人麻呂
「わぎもこが 寝くたれ髪を 猿沢の 池の玉藻(たまも)と 見るぞかなしき」
(意訳:愛した妻の寝乱れた髪が、猿沢池の美しい藻を見ていると思い出されて切ないことだ)
●ならの帝
「猿沢の 池もつらしな わぎもこが 玉藻かづかば 水ぞひなまし」
(意訳:猿沢の池もつれないことだ。愛しい女が美しい藻に沈むのなら、水が乾いてくれればよかったのに)
そんな悲恋の采女の霊を慰めるため、毎年の「中秋の名月」の日に、猿沢池で催されるのが『采女祭』です。
中秋の名月の日に行われる采女神社の例祭『采女祭』。数日前から猿沢池には、お祭りで使用される「管絃船(かんげんせん)」が浮かべられます(2013年の采女祭3日前の写真)
猿沢池のほとりには、「采女祭」のいわれを説明したこんな碑もあります。身投げした采女の霊を慰めるお祭りで、その中の「花扇奉納」の行事は、王朝貴族が七夕の夜に秋の草で飾った花扇を献じ、庭の池に浮かべて風雅を楽しんだ故事によるものだとか。どの行事もとても雅に行われます
猿沢池のほとりには、入水する際に采女が衣をかけたとされる「衣掛柳」と伝わる柳があります。現在で何代目の柳かは分かりませんが、風情があります。お祭りの前に見ておくといいですね
この日のみいただける「糸占い」も
采女祭の式次第は以下のようになります。
●前日17時~ 宵闇祭
●17時~ お渡り式(JR奈良駅から猿沢池までの行列)
●18時~ 采女神社例祭(社殿での例祭)
●19時~ 管絃船の儀・花扇奉納(管絃船に乗って池を2周した後、花扇を沈める)
お渡り式は、17時半過ぎに猿沢池へ到着します。三条通の途中でじっくり眺めてから猿沢池のほとりに陣取っても十分に間に合いますが、池の南側(管絃船と興福寺五重塔が同時に収められる場所)は早めに埋まるようです。
なお、実際に行ってみて初めて気付いたことですが、管絃船の儀では、管絃船は猿沢池を2周します。しかし、1周目に目の前を通ったことで満足する方も多いようで、そこで帰る方もいて、2周目の時には意外と空いていました。最後の方にちょっと立ち寄るだけでも、よく見える可能性はありますね!
この日(2013年9月16日)の17時頃、猿沢池に行ってみると、すでに池の南側からカメラマンさんたちで埋まってきていました。こちら側は、池に浮かぶ管絃船と興福寺・五重塔が同時に収められるアングルのため、早い時間から埋まるようです
17時15分ごろ。管絃船のお試し航海など。また北側のほとりはいくらか余裕がありますね。最前列で見たい方は、このくらいの時間が目安かもしれません。折りたたみ椅子などがあると便利ですよ!
采女祭スタッフの方の法被。かっこいい!
普段はひっそりと静かな采女神社も、この日だけは賑やかです
采女神社の本殿正面から。猿沢池に背中を向けて社殿が建っています。言い伝えのように、一夜にして背中を向けたのかもしれませんね
悲しい恋物語が伝わる采女神社ですが、それが転じて「縁むすび」の霊験あらたかとされています。こんな日に縁結びのお守りをいただいたりすると、よりありがたいですね
授与所では、この日のみ「糸占い」(初穂料300円)がいただけます。古来より「仲秋の名月の月明かり針に赤糸を通すことができれば願いが叶う」と伝えられているとか。ロマンチック!
雅な装束で三条通を練り歩く「お渡り式」
17時25分くらい、JR奈良駅を出発していた「お渡り式」の列が、猿沢池に姿を見せます。先頭のお稚児さんは、羽根を背負った迦陵頻伽(がりょうびんが)のような姿でした
続いて、奈良市の姉妹都市である、福島県郡山市の「郡山市親善使節団」の方々。両地域は古来から交流が盛んで、福島県郡山市でも「郡山うねめまつり」が行われています。先頭にいらっしゃるのが(おそらく)「ミスうねめ」の女性です
古代の文官の衣装で続きます
采女の姿の方々も。間近で見るとさらに美しいんです!
十二単姿の花扇使が、この御所車に乗って来たようですが、采女神社の近くは大変な混雑になるため、よく見えませんでした
三条通に夕日が沈んで、中秋の名月の夜がやって来ます
猿沢池で行われる「管絃船の儀」「花扇奉納」
18時10分ごろ。次第に宵闇が濃くなっていきます。春日大社の神官によって、采女神社で例祭が行われています
船が出発する「管絃船の儀」は19時から。その15分前くらいから徐々に乗船の準備が始まります。水面に映る提灯の灯りが美しいですね
19時の「管絃船の儀」の時間には、これだけ夜が深まります
管弦舟は2隻あります。こちらは龍をかたどった「龍頭」。秋の七草で飾られた2m余りもある「花扇」と、十二単の花扇使などが乗船しています
聖なる鳥をかたどった「鷁首(げきす)」という舟。雰囲気ありますね。ちなみに、乗船場の近くは関係者席になっているため、一般の方は入れません
雅楽の調べにのって、管絃船が出発。猿沢池には40余りの流し灯籠が浮かべられており、その周囲を周ります。ゆっくりとしていそうに見えますが、意外と動きが早くて、カメラがブレるくらいです(笑)
2隻の管絃船は、猿沢池を2周します
2周し終わると、2mの大きな花扇を乗せた龍頭は、池の中央へ進みます
そして、力を合わせて花扇を持ち上げて……
池へ投げ入れます!かなり重そうで大変です。翌日どうなっているんでしょうね?
■采女祭(うねめまつり)
HP: 参考サイト(奈良市観光協会)
所在: 采女神社(奈良県奈良市上三条町23-4)
開催日: 毎年の「中秋の名月」の日
開催時間: 17:00 - 20:00前ごろまで
アクセス: 近鉄奈良駅から徒歩7分、JR奈良駅から徒歩13分
※2014年は「9月7日(日)」に開催されます
※この記事は「2013年9月16日」の様子です
■参考にさせていただきました
采女祭 - Wikipedia
2014年9月7日(日)~8日(月) 采女祭/采女神社(春日大社) | ホテルアジール・奈良
【なら再発見】71 釆女神社と采女祭 「えんむすび」の神様に