万葉集に詠まれた飛鳥川の『飛び石(石橋)』@明日香村
明日香村の稲渕地区にある『飛び石(石橋)』を観てきました。これは、飛鳥川に石を渡して橋として使ったもので、万葉歌にも数多く詠まれたものです。万葉の時代を感じさせるような、古き良き日本の田舎という場所で、きれいな水に足を浸すだけでも気持ち良かったですね。また一つ、奈良で大好きな場所が見つかりました!
奥飛鳥の飛び石は風情のある場所でした
万葉集にも詠まれた、飛鳥川(古くは明日香川)の「石橋(いしばし、いしはし)」。要は、川に大きめの岩を置いて橋の代わりにしたもののことで、万葉歌人には、この橋を渡ることが逢引きを意味したり、恋人との距離感を示す例えに用いられたりと、たくさんの歌に登場しています。
その石橋は、今でも「飛び石」として、奥飛鳥の地に残っています。
有名な「石舞台古墳」から15号線をさらに奥に進むと、棚田で有名な「稲渕地区」があり、その少し先に「あすか川 飛び石」の印が見えます。田んぼの間の舗装された道を降りていくと、間もなく飛鳥川に渡された小さな橋と、飛び石の姿が見えてきます!
明日香村の「石舞台古墳」から15号線をさらに奥に進むと、棚田で有名な「稲渕地区」があります(さらに進むと栢森から吉野へ抜ける芋峠に)。その左手に「あすか川 飛び石」の印が。この細い道を下ると、すぐに万葉歌にも詠まれた「石橋(いしはし)」が現れます
静かに流れる飛鳥川(万葉の時代は「明日香川」でした)。小さな橋とささやかな飛び石があります
飛鳥川の飛び石(石橋)。人の手は入っているものの、万葉歌の雰囲気が十分に残っていると思います。想像していた以上に心静かに落ち着く場所でした!
きれいな水に足を浸して飛び石を渡ります
この日の水量は、真ん中の石に水が被る程度。私たちもサンダルを脱いで、足を濡らしながら石橋を渡ってみましたが、本当に気持ちよかったですね!万葉の時代そのままとまでは行きませんが、夏はホタルが飛び交うようなきれいな水ですし、大人がこっそりと水遊びするには最高のロケーションでしょう。
もちろん、季節や天候にもよりますが、今頃の時期は水が冷たすぎることもありませんので、ぜひ夏に来て欲しいところですね。水深は浅いのでそれほど危険はないと思いますが、お子さんなどが渡る場合には十分にお気をつけください。
また、写真には写っていませんが、たくさんの蜻蛉(とんぼ)が飛んでいて、それがまた万葉の気分を盛り上げてくれました。まだ地味な色をしていたトンボたちですが、秋になると里へ下って赤とんぼになるのだそうです。「日本に生まれて良かった!」と思えるような、素敵な時間が過ごせました。
飛び石の様子。この日は真ん中の石に水が被るくらいの水量でした。サンダルを脱いで石橋を渡ってみましたが、水が冷たくてキレイで、本当に気持ちのいいところですね
水量は多くありませんが、岩で水が飛び散るさまは「石走る(いわばしる)」という言葉が連想されました
飛び石から見た橋(下流側)。このすぐ上流では毎年ホタルが見られるようなところですから、水はきれいです
橋の上からの眺め。ちなみに、写真には写っていませんが、たくさんのトンボが飛んでいました!夏が過ぎた頃には体色の赤みが増してきて、下界へ降りる頃には赤とんぼになるそうです。明日香村でも、ここまで奥に入るとこんなに田舎の風情が残されています
石橋は万葉の時代から歌に詠まれてきました
飛び石の上には小さな橋がかかっていますが、その脇に「石橋」を詠んだ万葉歌の歌碑があります。
飛鳥川の飛び石のほとりに建てられた万葉歌碑。犬養孝先生の揮毫です。もちろん、後から作られた石碑ですが、大げささが無く周りの風景に溶け込んでいました
作者不詳の万葉歌「明日香川 明日も渡らむ 石橋(いしばし)の 遠き心は 思ほえぬかも」 大意「あなたに対して遠くはなれた気持ちなど持っていません。」
遠き心は 思ほえぬかも
この歌もそうですが、飛鳥川の向こう側に女性が住んでいて、飛び石を渡って会いに行く(会いに行きたい)という内容が定番化しています。どこか大げさなように聞こえますが、川を渡ることはそのくらい大きな意味を持ったのでしょう。
瀬々(せぜ)ゆ渡しし 石橋もなし
こちらも明日香川を詠んだ、「故郷を思ふ」と題された2首の一つ。この時から「川の飛び石が無くなっている」と詠われているくらいですから、現在の飛び石も当時のものそのままではありません。この日、地元の方と少しお話できたのですが、やはり大水などで何度か流されていて、そのたびに直しているらしいとのことでした。
さらに、明日香川を用いた比喩的な表現も色々と使われていたようです。
間近(まちか)き君に 恋ひわたるかも
笠女郎(かさのいらつめ)が大伴家持へ送った24首の一つ。ここに詠まれた石橋は、「飛び石の間くらい間近」という例えになっています。
花にしありけり ありつつ見れば
「かほ花」とはどの花なのか確定していないようです。ここでの石橋は「とびとびである様子」の例えですね。
少し上流には「もう一つの飛び石」も
実は、この石橋から数百メートル上に、もう一箇所「飛び石」の表示がある場所があります。地元の方のお話では、本来のものは先に見た下流側のもののようですが、こちらも静かで素敵なところでした。興味がある方は合わせてどうぞ!
実は、先ほどの飛び石からもう少し上流に行くと、もう一箇所、同じ表示が見つかります。ここも道路から降りてすぐにありますが、やや草木が生い茂って鬱蒼としていました
ちゃんとした手すり付きの石段の先には、確かに石橋が。ここも静かできれいなところでした
(もう一つの)石橋の様子。石が水に少し隠れるくらいですから、夏に渡るにはちょうどいいですね。冷たくて気持ちよかったです
上流側を見たところ。護岸工事はしてありますが、懐かしい川辺の風景ですね。川の水音とセミの声だけが響いていました
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■飛鳥川の「飛び石」(石橋)
住所: 奈良県高市郡明日香村稲渕(男綱を過ぎてすぐ)
アクセス: 石舞台古墳から徒歩30分ほど